第16話 銅

「ガンバ!なのよー

 ガンバ!だわさー」


 いつものように俺の周囲を騒がしく妖精少女パックが飛び回る。 


 ツルハシで固い地面を打ち付けていると、気配が湧いて来る。

 身長が2メートル程度の石の巨人ゴーレムが多数。コバエだ。

 それよりも確実に背の高い金属の巨人メタルゴーレムも入り混じる。ゴキブリだな。


 速度上昇アクセル

 瞬間冷凍フリージング

 

 深夜作業の開始時に筋力強化ストレングスは既に使っている。

 俺はまずは五月蝿い石の巨人コバエを始末する。えいやっとジャンプ。石の巨人ゴーレムの頭の上から勢いを着けたツルハシで打ち付ける。

 それで半壊した石の巨人ゴーレム。中央に見えている魔宝石。

 あれは黄魔石トパーズだな。

 サッとその魔宝石を奪う。

 すると人型をしていた石の巨人ゴーレムはただの石くれへと姿を変えた。


 やっぱり、そうじゃないかと思ったんだ。

 今までに倒した石の巨人コバエの中には必ず魔宝石が在った。拳大の立派なヤツ。

 もしかするとこの魔法石が石の巨人ゴーレムの心臓部なのでは無いか。そう考えていたのだが、どうやらその考えに間違いは無さそう。


 残り3体の五月蝿い石の巨人コバエ。俺は瞬間冷凍フリージングをかけたツルハシでサクサクその動きを奪う。

 

 後はツルハシで砕いて魔法石を奪うだけの簡単なお仕事です。

 

 俺は簡単に魔法石を5つ手に入れた。黄魔石トパーズ2個に、緑魔石エメラルド2個、青魔石サファイヤ1個か。ランダムっぽいな。


「やったのよー!

 やっただわさー!」


 喜ぶのはまだ早い。石の巨人コバエは倒したものの金属の巨人ゴキブリがまだ残っている。

 瞬間冷凍フリージングを喰らってはいるが、金属の巨人ゴキブリはアバれて、今にも動き出しそう。


 地獄の炎ヘルファイヤ

 地獄の炎ヘルファイヤ

 地獄の炎ヘルファイヤ


 俺は地獄の炎ヘルファイヤの3度がけ。

 地獄の炎ヘルファイヤが500度だと仮定して、3回かけて1500度という程単純に行くかは分からないが。

 

 地獄の炎ヘルファイヤ×3で真っ赤に輝くツルハシを金属の巨人メタルゴーレムに叩きつける。

 金属の巨人ゴキブリはドロドロと溶けだし動かなくなった。

 残骸の中には魔法石らしき物も見えるが、今手を差し出したら大ヤケド。冷えるのを待つとしよう。



「なんかもうスッカリ雑魚扱いなのよね」

「雑魚と言うか、害虫退治だな」


 俺は害虫を潰したトコロで気分良く、ツルハシを振るおうとするが。

 いかんな。高熱で金属の巨人ゴキブリをぶっ叩いたツルハシは先端が潰れている。


「むぅ、買ったばかりなのに……」

「アンタ魔法石たくさん貯めこんでるだわさ。

 それって人間界じゃお宝なんでしょ。

 ツルハシなんて大量に買い込んじゃえばいいだわさ~」


 ふーむ。それしか無いかな。あまりショッチュウ売店行ってると目立ってしまいそうだ。しかし他人の行動に気をかけてられる程、鉱山労働者はヒマでも無い。

 

 そう言えば売店のオバちゃんが鉄製の新製品があると言っていたような。

 現在俺が使っているツルハシは青銅製。おそらく錫の割合は少ない。


 青銅と言うと青緑色を思い浮かべるかもしれない。鎌倉大仏や自由の女神像。だが、あれは長年空気にさらされ表面が酸化して緑青を生じた場合の色なのである。単純に言うと表面が錆びた錆色。

 身近な物で思い浮かべるなら十円玉。

 あの赤胴色が青銅の色合いなのだ。錫の割合を増やすと光沢を増し金色に近づく。更に錫の分量を上げると銀色に変る。古代の銅鏡などはこの白銅なのだ。こいつは見た目は美しくいのだが、壊れやすくもなるのである。だからその後、中世で鏡を作る時は赤胴色の銅製品に水銀を用いて鏡面とする製法に変化する。


 あー、前世で製鉄の事を学んでるうちに着いた知識だな。

 実は300年程度前まで日本は世界一の銅産出国だった。足尾銅山なんかが有名。だけど聞いた事があるだろう。銅の混じった排水、坑道から漏れ出した亜硫酸ガス、足尾銅山鉱毒事件と言うヤツ。

 そのせいもあって現在日本では銅山を全て閉めてしまった。それだけでも無く、輸入銅のコストが下がった影響も大きいだろうが。


 そんな話はいーや。

 とにかく明日売店行って、鉄製のツルハシ買うとするかな。



「ちぇー、なのよ」


 床を掘り進められない、と知って妖精少女パックは不満顔。


「明日も頑張るから、そう怒るな」


 俺はちみっちゃい子の頭を撫でてやる。力を込め過ぎないよう慎重に軽く。


「うーん、分かっただわさ」


 割とアッサリ妖精少女パックは機嫌を治した。


「うんじゃ、外に行く?

 また魔凶鴉ネィヴァン退治するんでしょ」

「ああ、だけどちょっと待ってくれ」


 俺は先ほどの金属の巨人メタルゴーレムの残骸に近づく。

 魔法石は…………金剛魔石ダイヤモンド青魔石サファイヤ青魔石サファイヤは大粒で見た目も良い品。

 残ったのは溶けて固まった金属。おそらく銅が中心の鈍い金色の塊。


「この金属……放っておくとまた金属の巨人ゴキブリが湧くんじゃないか」

「そうかもねーなのよ」


 俺は冷えた金属の塊を魔法石と一緒に妖精のマントにしまった。


「このマント、一体どれだけ入るんだ?」

「ん-、知らないだわさ。

 一応妖精族の秘宝なのよ。

 いくらでも入るんじゃないのだわさ」

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