第9話 充実した日々?

 そんな風で数日が過ぎた。


 俺は昼間、ヒンデル老人と鉱山で強制作業をしながらイロイロこの世界の常識を教えて貰い。

 夜は妖精少女パックと地下の坑道を掘り進めた。


 湧いて出て来る石の巨人コバエ金属の巨人ゴキブリを倒しながらだ。

 倒すたびに赤魔石ルビー青魔石サファイヤを使用するのだが。地下の岩盤を掘って出て来る魔石の数の方が多い。

 俺が妖精のマントに隠している魔石はドンドン増えて行った。


 黄魔石トパーズ緑魔石エメラルドだけじゃない。

 金属の巨人メタルゴーレムを倒すと手に入った。

 透明な魔石。

 金剛魔石ダイヤモンド

 これも何かに使えそうだ。



 俺は余裕のある時に売店に行って見た。


 鉱山の売店。作業員がメシを食う食堂の脇にある掘っ建て小屋みたいなモノだ。ここでツルハシやら、衣料を買う。


 中にはタバコがどうしても止められん、と言ってメシや服を削ってタバコを買うようなヤツもいるらしい。

 タバコか。俺は日本では試してさえいない。健康には良くないモノの、ストレスにはある程度効果があるんじゃ無かったか。

 刑務所等でタバコを配布したら、罪人たちのトラブルが減ったと言うような記録を読んだ事がある気がする。


 この鉱山は罪人が連れて来られた強制労働所。しかし作業員同士のトラブルは少ない。

 ハッキリ言って、みんな疲れ切っているのだ。鉱山労働でクタクタになってるから、作業員同士でケンカするほどの気力が残って無い。


 売店にはオバちゃんがいつもいる。


 ヒンデル老人によるとこのオバちゃんも罪人として連れて来られたらしい。体力の少ない女性はメシ係やこういった売店担当をさせられる。

 若くて見た目の良い女性なら、監視員の愛人になったりするケースもあるらしい。

 羨ましい……じゃ無くてヒドイ話だ。

 セクハラだぞ。……セクハラとか言うレベルじゃ無いか。人権意識がマトモに無いんだ。


 俺は売店のオバちゃんに声をかける。


「すいません。

 ツルハシの事で伺いたいんですが……」

「あいよー。

 ツルハシ新しいのと取り換えね。

 コイン2枚だよ」


「はい。

 それだけじゃなくて……」

「こんなに歪むまでガマンして使ってたの。

 替え時を間違えると作業効率悪くなるだけだよ」


 そりゃ分かってる。

 鉱山作業で傷んだんじゃない。金属の巨人ゴキブリをぶっ叩くのに使ったのだ。


「鉄製の新製品に取り換えてみるかい?

 コイン4枚ね」


 そんなのあるのか? 

 普段使ってるのは、青銅製だったのか。

 まあでも目的はそっちじゃない。


「ツルハシは普通ので良いから。

 別にシャベルが無いかな?」

「シャベル……どんなのさ?」


 オバちゃんが首をかしげる。


 俺はシャベルの説明をしたが、オバちゃんにはピンと来ていない。


「作ってるヤツに訊いといてやるよ」


 オバちゃんのセリフで俺は売店を後にする。



 いつもの鉱山労働。ヒンデル老人に話を聞きながら俺はツルハシで岩盤を砕いて行く。


 今日聞いたのは貴族の話だ。

 この国には王様が居る。そして貴族たち。

 中でもクライン家と言うのが有名らしい。武人として国民に人気もある大貴族。相手が王でも意見をハッキリ言うので、国王にはうとまれている。


対魔騎士の中の対魔騎士ナイト・オブ・ナイツ

 そう言ったらクライン家の代々の当主の事を指すと誰でも分かる言葉じゃな」


 対魔騎士の中の対魔騎士ナイト・オブ・ナイツ

 クラインか、カッコイイじゃん。


「ふーん。

 でも王様には嫌われてるんだ。

 クラインとか言うのは有能なんだろ。

 なら王もそいつの意見を聞いて、任してしまえばいいのに」

「偉い人間と言うのは他人に口出しされるのを嫌うもんじゃ。

 まして王様じゃからな。

 自分の言う事にみんな平伏して従うのがアタリマエじゃと思うとるんじゃ」


 はぁ。

 それは俺も前世で知っている。日本に王様はいなかったが、会社の社長とか役員なんてそんなヤツばっかなのだ。 

 取引先ばかりではない。俺のいた会社もそうだ。

 お前も社長だったんだろ、って。

 そりゃそうなんだが、みんな俺より年上、親の世代、下手すりゃ祖父くらい年が離れているのだ。それをアゴで使うなんてマネが俺に出来るハズも無い。

 ワガママで言う事が全員違う役員たちの間を俺が駆けずり回って、意見を調整していたのだ。


 なんだか、この世界の王様にムカついて来たぞ。

 俺だって好き勝手したかったんだ~。

 うーん、今さら言っても空しいだけだな。そうだ、この世界では俺はそんな立場から逃れたんじゃないか。


 うん。楽しく鉱山労働に精を出そう。


「……よくわからんが……

 アンタは本当によく働くな。

 他の人間達が疲れ切って動けなくなるような重労働じゃぞ。

 それをワシの分までフォローして……

 しかも楽し気に鼻歌を歌いながら、ツルハシを振るうとは。

 この目で見ていなければ、到底信じらんことじゃ」


 なんでだよ。

 労働、楽しいじゃんか。額に汗して単純労働。誰に気兼ねする事も無く言われた仕事を成し遂げればいいのだ。

 しかも、最近ではその後に夜はちみっちゃい女の子から応援付きでオシゴトがあって。更に野山をハイキングまで楽しんで、鳥や獣を狩って、その肉を食べる楽しみまで着いてくる。

 充実しまくりだな。俺の生活。


 そうか、だからだな。前世でやたら異世界転生に憧れる話が多いと、なんとなくウワサで聞いていた。

 が、あの頃の俺には小説を読む時間もあまり無く、良く理解出来て無かった 

 確かに。

 これなら、憧れる人間が多いのも頷ける。


「……ナニを考えてるのか、ワシには分からんが、

 多分何かカンチガイしてると思うぞ」


 ヒンデル老人が何か言ってるが、俺は気にしない。

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