週末電脳戦記ルーリスタ
根岸和哉
◆Ep1st 『Re:Act』 プロローグ
◆01 八週目『荒ぶる配信チャンネル』
腕時計型の次世代端末・ブレスニューロで画面を宙空に投影し、峰崎明日真はアルバイトの休憩室でひとり、とある配信動画を再生し始めた。
『ハイ初めまして! 今や残念声優な
始まるなり、ボディにフィットするオレンジ色のダイブスーツを着た、もう十分見知った茶髪の外ハネヘアーがタコウインナー型な女性が、恥も外聞もなく笑顔を見せる。
『ともあれ、むか~し私がパーソナリティやってたルーリスタの配信番組がまさかの復活! というわけで、新生マキマキ☆チャンネル第1回、はっじまっるよ~!』
普段あまり聞かない高い声は、彼女の本業的には必要なのだろう。
『私がこうしてまた皆さんの前に出て来れたのは、そりゃあもうひとりのパーソナリティのおかげ! ではでは早速ご紹介! イマドキ彼女を知らないとか絶対モグリ! 名だたるルーリスタギルドの頂点、S1ランクの最高峰ギルド・
促されるまま画面に入って来たのは、弾季と似た赤いダイブスーツを着た、
その作り笑いが、明日真にはひどく白々しい。
『ハイどーもー!
元気よく百鬼が挨拶をしたのも束の間、すぐさま訪れる沈黙。
『……え、ちょっとマキマキ、ここでいきなり黙らないでくれる?』
苦笑しつつ切り出したのは百鬼だった。
『いや~
『まあその辺は、あたしも色々とあったってことよ。とにかく、あたしは自分が作り上げる理想のギルドで、かつていた
『とまあ
『その名もDM!』
『……あぁ~、違うでしょ~? ち・が・う・で・しょ~! 台本! 台本どこ行った! もう百鬼ちゃんたら自由なんだから! ギルド名を言え! 言うんだ~っ!』
オレンジダイブスーツな弾季が、レッドダイブスーツな百鬼にヘッドロックを決める。
『マキマキ、ギブギブ! でも、DMはDMでしょ!?』
『それ略称ね! 正式名称を聞いてるんだよ百鬼ちゃん!』
『……Dear Memoriez?』
『ハイコレキタコレ! というわけで、Dear Memoriezでございます。でも最後はsじゃなくてzなんだってさ! 何でかは百鬼ちゃんしか知らないッ! 何で!?』
『だってzは、終わりの文字だから』
『ろくな説明になってないぞおおおお!』
『ちょぉっ、マキマキ痛い! マジで痛い! 次! 次に行って!』
『次ぃ~? この状態でやったらかわいそうでしょ!』
と、百鬼が弾季の拘束から抜け出して、いったん深呼吸。真面目な顔を取り戻してから言った。
『とにかく、これからこの番組ではマキマキと一緒に、あたしらが前の週末に取った戦術の意図とか、我がギルドのメンバーを続々と紹介していくわ』
百鬼が咳払いをして場を仕切り直すと、弾季がくるくると回りながらカメラに映り込んで言った。
『色々企画も考えてるから、お楽しみに!』
『というわけで……
百鬼の手招きで画面におずおずと入って来たのは、緑のダイブスーツの上に灰色のパーカーを羽織った少女。
そんな黒髪おかっぱ頭の少女がもじもじして言葉を発する前に、弾季が動き出した。
『ハーイ! 初回ゲストのハヤハヤこと
『えっと、あの……よ、よろしくお願いします』
『よし、じゃあまずはその上着を脱ぐところから始めようか!』
『え……はい?』
『お客さんが見てるでしょ! ダイブスーツ姿
そして弾季が颯に襲い掛かる。
『良いではないか良いではないか~』
『えちょ、嫌ですって! 約束が違うじゃないですか!』
『ちょいちょいちょい待てコラァ~!』
画面の中から逃げ出す颯と、追いかけて見えなくなる弾季。
と、画面に残った百鬼が
『颯がどんな子かって言うと、ウチの大事なパズラーよ。でもついこの間まで、ルーリスタなんてやったこともなかった』
『つまり初心者さんなのさっ!』
ニョキっと、これまた画面の左下にどアップで弾季が顔を出す。
『というわけでぇ、今日は視聴者の皆さんと一緒に、ハヤハヤにルーリスタのルールをちゃ~んと説明してあげようと思ったわけなんだけども……』
『完全に
『アハハ、ごめんごめん。おーいハヤハヤ~? もう脱がさないから、こっちおいで~』
『し、信用できません! 嫌です!』
画面に映っていない颯の声が聞こえる。
これは出て来るのにしばらくかかるだろうなと、明日真は苦笑した。
と、
「お? 何だよミネ、こんなトコでマキマキの番組見てんのか?」
振り返れば、首の後ろで結んだ長い茶髪と
「んなもん家で見りゃいいだろうに」
「
「いつも見てる姿だろうに、そりゃまた何とも幼馴染ちゃんらしい」
「でも、百鬼や弾季さんからやたらアピールされたら、見たいじゃないですか。ある意味、俺らの始まりの記録なんだし」
「もうすぐで始動から二ヵ月、だったか?」
「そうですね。八週間目だから、そんなものです」
明日真はもうすぐ二ヵ月となるこの八週間に想いを馳せ、画面の中の百鬼を見つめる。
彼女との再会からここまで、まるで嵐のような日々だった。
それはもちろん、これからも続いて行くのだろうが。
自分がまたこのVReスポーツ、『週末電脳戦記ルーリスタ』の競技シーンに戻って来ることになるなんて、八週間前の明日真は思いもしていなかった。
全てはあの日、あの時から、再び始まったのだ。
天鵬院百鬼。
テレビでも持ち上げられ、屈指の
業界とびきりの有名人が、明日真のクラスにいきなり転入してきたあの日から……。
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