夏洲(かしま)

煙雨 ーけぶるあめー

「忘れること」


まず昨日を忘れること

それが

最上だと

マスターが

グラスを寄越す


強そうな酒は確かに

昨日も今日も

明日さえも

忘れそうだ






心を閉ざした奴なんて

その辺に

ごろごろさ



あんた

何を見つけたいんだ




古い映画の台詞にあったよな

昨日の過去も

明日の未来も

約束なんてできないやつが


むかしの恋人なんて探すなよ




「ジュークボックス」


雨が降ってきた


今夜は

客なんて来ねえな





ここは

裏通りだぜ

誰が知る?


誰もなにも

知っちゃーいないさ


ああ、焼けるほど呑んで

つぶれた奴なら

たくさん知っているけどな


それか?

古いだろ

昔の曲ばかりだ


かけるかい

気だるいのしか、入ってないさ




「 常連」


ここは午前10時に

お休みをいうところさ


あんた、なにしに来たんだい




ふ~ん、

あんた、人探しか


ここは

隠したいものを隠す街さ


見つからないよ





忘れるのさ

そうしてほしいから

隠れたんだろ


人ってのはさ

覚悟して

身を隠すときは

見つかるもんか


わたしかい、そうさ

覚悟して

こうしてここにいるんだ

なにも

思い出さないし


構うもんか、死んだ後の事なんて




ノー、グッド

ひとなんて

そんなもんさ



いいかい

探すんじゃないよ





「 信号」


君に思うこと

どうしているだろうか

問いかけてもいいだろうか

懐かしかった日々


今は誰とも

交わせなくなった

こころの内


君となら

心置きなく話せた


今は君の居るところ

とても近くて


遠い




心の中にある

遺影おもかげ

そっと、話しかけた



逢いたい

ただそれだけ を


ー完ー






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夏洲(かしま) @karyoubinga

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