鼻歌三文即興小説

珈琲P

「日没、屋上、ラベンダー、ゴミ箱、私を見ないで」

いつもは浮足立つはずの6限目の終わりのチャイム

その日だけは「鳴るな。そして何も起きるな」と祈った。


「それではこれで本日の授業はおしまいです。」


教卓で コツコツと教科書とノートをそろえる音がする。


「終わりのホームルームを始めます。日直の方、号令を」

「「起立、礼・・・・・着席」」


「はい、始めます。

本日は非常に残念なことを皆さんにお伝えしなくてはなりません。


皆さんがみんなで育てていた校庭の花壇のラベンダーが

誰かの手によってむしり取られ、ゴミ箱へ捨てられていました。」


全員が俯き、顔を上げない。

だってはんにんをしっているから


「ゴミを収集してくださっている係りの方が発見し、報告してくださいました。

その方のお話ではお昼休みの時間にはまだなかったそうです。

そして、お昼休み以降、校庭での授業があったのは

このクラスだけでした。」


それはそうだろう

それをわかっていたのだろうから


「つまり、

クラスみんなで育てたラベンダーを引きちぎり、捨てた子が

この中にいるということです。

そして、 その子が見つかるまで

この会は終われません。」


先生は震えていた。

あんなにも優しい先生が、顔を真っ赤にしていた


泣きそうになりながら教卓から押し花を取り出した。

先生の誕生日会でみんなのプレゼントで渡した

本のしおりにしたラベンダーの押し花だった。


「皆さんはこの間、私に、これを、くださいました

本当にうれしかった、

優しい子たちだと、そう思いました、



だから…せんせいは、信じたくありません、」


全員が俯き、顔を上げない。

はやくおわらないかな。あめがふりそうだ



「だからせんせいは待とうと思います。

やった子を怒るなんてことはしません。

君たちは優しい子たちです。

やった子も、何か、きっと、理由があるはずです。

せんせいは「せんせー塾があるんで帰ってもいいですか?」「僕も」

「私も」「おやに『早く帰ってこい』っていわれたんですー」え・・・?


み、みなさん待ってください。せんせいの話はまだ「話長いんで帰りますね」「せんせーまた明日-」「さようならー」「さようならー」まって、待ってください。みなさん!!待って!!!





・・・なんで・・・」



やっと終った。

きょうはちょっとしつこかったな。はやくかえろう




その日からせんせいは少しおかしくなった


僕たちが目を合わそうとすると目をそらす。

授業するときも、誰かを当てるときもそうだ

「みないで!私を見ないでください!!」


さらにいつものグループでせんせいを囲うようにすると 面白い

「な、なんですか、近寄らないでください」

何度も何度も

ある時はいきなり、ある時はみんなでせんせいと遊んだ


せんせいはやっぱりいい人だ



そんなある日

せんせいは屋上から落ちていなくなった。

落ちた場所は ちょうど

僕たちが みんなでラベンダーを捨てたあのゴミ箱の上だったらしい








ラベンダーの花言葉は4つ

「あなたを待っています」 「期待」 「清潔」  そして・・・




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