「朝焼け、崖、アケビ、上着、何でも知ってる」

薄暗い青色の切れ端が瞬く間に橙色に燃え上がっていく


「朝焼け」というのは本当に見事な表現だ。

まさしくこういうことを言うのだろう と冬の空を見上げて

震えながら、頭の中で冷えたインスタント珈琲と共にその言葉を転がした。


パシャッ




いそいそと露が張り付いたテントへ戻り、上着を羽織る


携帯端末が鳴る。


「毎度お世話になっております。あなたの妻です。フフフ」

「……………おはよう」


5時17分、いつもであれば

彼女が起きるにはかなり早い時間だ


「見れた?」

「ああ」


「綺麗だった?」

「そうだね」


「写真撮れた?」

「いいのが撮れたよ」


「ふふふ、楽しみ」

「ああ、すぐ送る」


「寒かったでしょう?」

「…ああ」


「やっぱり」

「…」



彼女はいつも

私のことを何でも知っているかのように話す


「妻ですから」

「……」


「いいんですよ、私のためだもの。」

「そうか」


テントからでて、近くの海岸線へ向かう。

振り返れば、まだ燃え尽きていないアケビ色の空が遠くへ見える。




「ありがとう。あなたのおかげで私たちの作った核兵器の実証実験が完了したわ。

現地での写真も入手できた。

これでもう邪魔はされないわ。本当にありがとう。愛してるわ。」







ああ、世界最後の日が今日であることも


彼女は知っていた






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