第34話  母さん

私は何とか動けるようになった。


母親のベッドの横に座り痩せ細った手を握る。


「母さん、ごめんね私のために…………」


「いいのよ七香、私もこれで安心して天国に行けるわ」優しく微笑んだ。


「お母さん……… 」涙が途切れることもなく流れていく。


「七香、これからが大変よ、頑張って生きてね」母さんは握った手に力が入った。


父さんが病室へ入ってきた。


「七香、色々検査したが思った以上に覚醒はうまく行ったようだ」


「そうなの?」


「ああ、おそらく旭くんの血が助けてくれたんだと思う」


「えっ?旭の血?」


「そうとしか考えられない」


「父さん、旭は何でVX1マイナスの血を持ってるの?」


「解らない…………ただ………旭くんのお母さんに原因があるような気がするんだが、全く解らない」


「そうなんだ………でも旭の血が私を助けてくれたんだ……」私は旭の笑顔を思い出した。


「七香、しかしもうゆっくりはしていられない、美奈子さんから連絡があってラミアの女の子は旭くんと暮らしているらしい」


「えっ!旭と一緒にいるの?」


「ああ、どうやら旭くんの血のことを知ったようだ、それにその女の子と旭くんの子供が生まれたらとんでもない事になるかもしれない」


「旭はどうしてその女の子と暮らしてるの?」


「おそらく洗脳されているんだと思う」


「そう………… 」


「七香、これから旭川のトンコリ奏者『栄四郎』さんを訪ねるんだ、そして持ってるパワーをうまく使うことを習っておいで」


「栄四郎さん?」


「ああ、彼はラムの力を鍛える事ができるヴァンパイアだ、既に連絡したある」


「私、母さんと離れたくない」


「七香、私にできる最後のことをさせて……」優しく微笑んだ。


「何?」


「私の血を吸って、七香」優しく微笑んだ。


「もう覚醒出来たんでしょう?こんなになっている母さんの血なんか…………」


「七香、お前に母さんができる最後の事だ、願いを叶えてあげなさい」


「だって……………」


「七香、私の命と魂は七香の中に入ってあなたと一緒に生きるわ、そしてあなたを守る、だから母さんと一つになりましょう」


母さんは優しく微笑んだ。


「七香、母さんの思いを叶えてあげなさい、それに今の七香には母さんの血が必要なんだ」


父さんは私の肩に手をかけて促した。


「七香、私の願いを叶えて」優しく微笑んだ。


「母さん………」


私は母さんの腕にそっと吸い付いた。


母さんはもう片方の手で私の髪を優しく撫でてくれた。


しばらくすると母さんは微笑んで目を閉じた。


髪を撫でていた手がポトリとベッドに落ちた。


「母さん………」


私は母さんの体に抱きついて泣いた。


ただひたすらに泣いた、母さんは少しずつ冷たくなっていった。

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