第28話

 あーはずかしかった!!

 とうまって匂いフェチなのかな・・・。ぼくなんかの匂い嗅いで嬉しそうにするのは、割とマジでやめてほしいかも。

 でも喜んでくれるならいいかな。

 いいかな?

 いいのかな・・・。

 抱きしめられたのが嬉しくて恥ずかしくて置いて来ちゃったけど、いきなりぼくの匂い嗅ぐなんて恥ずかしい事した罰なんだからね!

 特別クラスの教室に戻ると、大凪さんと本庄くんが先に席に着いていて、ぼくを見るとにこやかに手を振って来た。


「あら、優くん」


「遅かったねー、笹凪くん!」


「あ、うん、ちょっとね。へへへ」


 いけない、とうまに元気もらってつい顔が緩んじゃう。

 本庄くんはちょっと勘違いしてくれたみたい。


「ゆるむよねえ。僕も新型の専属パイロットになりたいなあ」


「なれるよなれるよ! 本庄くんは僕なんかよりずっと男前なんだからね!」


「そ、そうかな!?」


「そうだよ、えへへ!」


 上手く誤魔化せたみたい。

 さっさと席に着いてっと。早くとうま帰ってこないかな。


「・・・」


 な・・・。

 う、なんか大凪さんの視線がおかしい気がする。

 すごくぼくを疑ってる目だ。

 ぼく、何かしたかな・・・。


「優くん」


「・・・はぃ?」


 ちょっと怖い・・・。

 ひょっとしてぼくの秘密がバレたとか・・・?


「実戦に出たって本当?」


 ほ、そっちか。


「本当・・・」


「無茶をしちゃダメでしょ。私達、まだ学生なのよ?」


「はぃ・・・ごめんなさい・・・」


「わかればよろしい。轟沢くんにも釘を刺しておかないとね」


 普通にお姉さんなんだな。大凪さん。

 でも、あの時は・・・。


 いけないいけない。思い出したら涙が出てきそう。

 もっと強くならなくちゃ。ぼくだって、とうまの事守るんだから。


【ガラララッ、ピシャーン!】


 な、なに!?

 入口の引戸を思い切り開けて、白尽くめの学ラン男がなんかポーズ取ってるんだけど!?

 キモい!!


「あっはあああああああん!? とぅどぉぅろくぃさぅわぅぁぁぁ、トゥをうまああああああああ! あはん! ぅおれと・・・、この! んん僕と!! フッ・・・。勝負をしようじゃあないか! ああんっ! 決闘どぅあああああん!?」


 え・・・。

 すっごく本庄くんにまるで蔓に絡め取られた残念な樹みたいなポーズをキメて白手袋をした手で、右手で指差してる・・・。

 どうしよう、怖い。とうま早く帰ってきて。

 本庄くんすっごく困った顔して苦笑いして言った。


「ごめん。僕は轟沢くんじゃないよ。轟沢くんはまだ戻ってきていないけど?」


「んん!なんだと!?」


 うわっ、こっち見た!?

 こ、こわい・・・!


「ううん、っキミぃ!?」


 目を合わせちゃダメ!

 目を合わせちゃダメ!!


「呼ばれたら人の目を見なウィとぅ、んん失礼! ししシトゥレイんじゃあないの壊!?」


 ぎゃー怖い怖い! 怖すぎるこの人!?

 ひいこっち来たあ!?


「キッミぅぃー? んん、な!?」


「うちのクラスメイトに何の用かしら? 変態くん」


 恐る恐る見ると、大凪さんが白いヤツの腕を後ろに捻り上げて比較的小柄な(だけどぼくよりはおっきい)身体で長身の男子を締め上げてる。

 かっこいい!!


「いっ、ウィたたたた! ちょちょ、まってっ、悪気はなかったんだよお!?」


 素に戻った?

 なんかちょっと情けない感じの普通の男子って感じ。


「いたいいたい! ああ、ごめん許して!? あ、ちょ、ちょっとだけ用事があっただけだから!?」


「へぇ、何の用かしら」


「ちょ、ちょっとっ、腕試しを・・・!? と、トドロキザワトウマ! み、見てないで助けてっ」


 あー・・・。なんだかすっごく涙目になってる。

 けど・・・。


「ごめん。ぼくもとうまくんじゃないんだ」


「んな!? なんドゥあってー!?」


「おいたする子は追い出します!!」


「あいたた! あいたたたちょっと待ってくれたまえ女子! じょしいいいいい!?」


 凄い・・・。大の男を容赦なく外に追い出しちゃった。


『いたたっ! ウィたた! も、ちょ、あっ!』


『さっさと教室帰りなさい!!』


『あひゃんっ、ら、らめーーーーー!?』


 う・・・真正気持ち悪い・・・。

 二度と関わりたくない人かも知れない、とうまにも注意しておかないと。


「ふう、一件落着!」


 あと大凪さんは怒らせないようにしよう。

 割と本当に怖い人かも知れない・・・。


「どうしたの? 優くん」


「あ、ううん。ありがとう大凪さん」


「んふっ。お姉ちゃん・・・て呼んでくれてもいいのよ?」


「あ、はい、また今度・・・」


 なんだか背筋がひょおってなって、目を逸らしちゃった。

 大凪さん、絶対怒らせないようにしよう。




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