第12話
いや、ちょっと待て?
松本基地って言ったか?
え、ここ東京じゃないの?
「まぁとりあえず入れ」
美人なレイラ先生に促されて俺と笹凪はプレハブの中に入る。
真ん中に簡易長テーブルを二つ向かい合わせて設置した上に、無造作にノートパソコンが四台置かれて、その前にパイプ椅子というなんとも間に合わせ感が凄いが、プレハブの奥にはロッカーみたいなデカい箱型の機械が鎮座しておりその機械には沢山のランプ、赤や黄色のランプが付いていて無線も内蔵されていることから何かしらの軍事用機械を連想させた。
手近なパイプ椅子に座る。
ノートパソコンはしっかりと閉じられていて、上に赤丸バッテンの大きなシールと極秘の刻印。
これ勝手に開いたら怒られるどころじゃないやつだな。
笹凪も俺の正面に座って、徐にパソコンを開こうとしたので俺は慌ててノートパソコンの扉に手を伸ばしてそれを阻止した。
「おま! ちょ、勝手に触んなっておもくそバッテン書いてあるじゃねえかよ!」
「ええー? ちょっと見るくらいいいじゃんか。どうせパスワードなんて分かんないんだし」
警戒心のカケラもない笹凪の口調に、レイラ先生が氷のような声で言った。
「勝手に開いたら脳天ぶち抜くぞ。極秘と表に書いてあるよなあ?」
「ひい!? え、ええーっと・・・。そうなの? 轟」
「轟沢な。俺達は軍属かも知れないけど正規の軍人じゃないんだから、正規軍の備品触っちゃダメでしょ。良くて営倉入りじゃね?」
営倉と聞いて、口元は興味が尽きないのかアヒルみたいに尖らせつつも、目元は若干不安げで一応手を引っ込めた。
そんな俺たちの様子を見て、レイラ先生が今度は優しげな口調で話してくれる。
「そう緊張するな、冗談だ!」
「いや、目がマジでしたよ」
「トーマは臆病者だなあ!?」
「まぁ、伊達に後頭部に銃を突きつけられてませんから・・・」
「まぁそんなことは置いといて」
置いとくんかーい。
「早速、格納庫に行ってオクスタンの整備だ! つっても、端末を繋いで回路を検診するだけの簡単な作業だけどな」
「目視で確認とか、打音とかしなくても良いんですか?」
「打音とか良く知ってるな。基本的には端末で点検は終わる。工具を使って整備するのは、体育の時間を使って授業でやるから、多少不具合があっても放置でいい。訓練機は完璧にしなくて構わないのさ」
つまり、不具合は残しておいて、授業で生徒に気づかせてその場で直させるってわけか。
手抜きなようで、結構酷いなえげつない。わかって当然直して必然ってわけだ。
だけど、完成形を常に見せておくのって大事じゃないんだろうか。
「まあ、七割方の機体は完璧な状態にしておかねばならないのだが」
ふうん。
その辺の匙加減は分からんが・・・。
ともかくと、レイラ先生に先導された俺と笹凪は黄色ラインを越えて20メートル先の巨大な格納庫に向かって歩いて行く。
初日はわからなかったけどジャンボジェットでも駐機出来るんじゃないかって大きさだ。こんなのが東京近郊の学校敷地内にあるなんて凄いな。
そういえば、「松本基地」とか言ってたけど?
このゲームの舞台って八王子辺りだったよね?
東京近郊のはずだったけど。
「なあ、笹凪」
「うんー?」
「東京らへんに松本って地名あったっけ?」
「お前あほなの? 東京に松本なんてあるわけないじゃん」
「じゃあ、松本基地って、松本さんの基地とか」
「ぶー。その冗談わらえないー。轟って地理もダメなんだねいくら記憶喪失っても、そこまで忘れるものなのかな」
うん。ちょっと笹凪優也の好感度が下がった気がする。
しかし俺も勝手にここが東京か埼玉か千葉か神奈川かって思ってたけど・・・。
「ゴメン笹凪。正気になってから特に不都合なくてなあなあでいたから確認してなかったんだが」
「ナンデスカ急にアラタマッテ」
「ゴメンて、その棒読み悲しくなるからヤメテ」
「で? 何を聞きたいのさ」
「ここって、どこら辺?」
凍りつく空気。
信じられない! ていう目で俺を見てすぐ、笹凪に目を逸らされてしまった。
その反応は酷くない?
ため息を吐いて前を見ると、レイラ先生が意味ありげな目で振り向いていた。
先生、前見て歩かないとぶつかるよ?
しかし流石レイラ先生アメリカ軍人。隔壁の手前で綺麗に立ち止まり、俺たちも立ち止まるとツカツカと俺に近付いて来た。
「ここは長野の松本市近郊だ。開けた土地がなければ、オクスタンの基地にはなり得ないからな。それよりもトーマ、貴様、なぜ居場所が東京近郊だと思ったんだ?」
「え、なんとなく?」
うぉ、眼力がすげえ。なんでも見透かされそうで怖い。
笹凪はレイラ先生の反応に驚いてキョトンとしてる。もちろん俺も。
レイラ先生はすっと俺の首に両腕を回して抱きついて来て、笹凪が「にゃあ!?」とよくわからない悲鳴を上げたがレイラ先生が平気で人に銃を向けられる人だと知らされてる俺はたまったものじゃない!
このままぶん投げられるんだろうか。首をへし折られるんだろうか。
しかしレイラ先生は俺の耳元に消え入りそうな声で、笹凪には聞こえないように呟いた。
《貴様、記憶喪失ではないな》
ふぁっ!?
《
ガメリカ!?
どこそれ、なんとなくアメリカっぽく聞こえるけど、どこそれ!?
すっと身体を離して、両手を俺の肩にポンと乗せポツリ。
「俄然貴様に興味が湧いた。卒業したら我が国に留学しないか?」
「ふぁっ!? ふぇっ!?」
その視線は真剣そのもの。
アウチ、折角抱きしめられたのに物凄い圧に緊張して胸の感触わからなかったシット!
そしてレイラ先生の視線が殺人的に冷たくなる。
「考えておいてほしい」
「ふぁっふぁっ! ふぇふぇ」
「ふぁーとかふぇーじゃない!」
ぽかっと笹凪に頭を引っ叩かれた。
「お前は
「ヨウホンってどこ!? 大陸のアノ国ですか!?」
「陽本は陽本だろいい加減にしろ!」
いや、マジでどこだよ!
設定日本だったじゃん! というか登場人物にレイラ先生なんていなかったような・・・。そういえばオクスタンの戦技教官はドイツ人のハンナさんだったような・・・アレ?
ここどこ?
レイラ先生の目が相変わらず氷のように冷たいのに嬉しそうに微笑んでる・・・。軽くホラー・・・。
そして暗く笑って言った。
「やはりなトーマ。留学の件、前向きに考えておいてくれよ?」
「いやっ、留学はちょっとその・・・」
「ソウルトラベラーの研究は、ガメリカと中欧民国でしか行われていない。さて、『ニホンジン』に友好的なのはどっちの国だろうなあ。ちなみに、ガメリカは陽本の同盟国だ。これ以上は言う必要は無いだろうが・・・」
最初は反発した笹凪だったが、レイラ先生の暗い気迫に流石に声が出ないみたい。
レイラ先生が鉄の扉の脇にカードをかざしてロックがガチャンと派手な音を立てて外れると、まるで戦車の装甲みたいに分厚い鉄扉をゴゴンと重たい音を立てて引き開け中に入っていく。
「行くぞ。整備の仕方について説明する」
ゴクリと、知らず俺は唾を飲み込んでいた。
笹凪が俺の左腕にキュッと抱きついてくる。
「な、なあ、ガメリカになんて行かないよね?」
「へう!? へ、ええ、あ、・・・うん」
そんな曖昧な返事しか出来なかった。
どうやらコレ。夢じゃないぞ・・・。
マジで俺、別の世界に飛ばされたってのか!?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます