11話「元ニートのおっさん、初心者冒険者から始まる」
――そんな彼から俺は視線を外すと、漸く本題の仲間探しを実行するべくギルドの受付所へと再び足を進め始める。
「初めましてカークランドのギルドへようこそ! ご要件はなんでしょうか?」
受付所へと到着すると早速一人の女性が俺の気配に気がついたらしく営業スマイル全開で声を掛けてきた。
「あ、はい。えっと仲間を募集したいのですが……」
既にその手の笑顔には慣れているが故に動じることなく余計なことは一切省いて要件を伝える。
「パーティーの募集ですね。畏まりました。ではお手数ですが冒険者の証をこちらにお願いします」
そう言うと女性は木製の丸い皿を差し出してきて、この皿の上に冒険者の証を乗せろということであろう。
「冒険者の証……ああ、ちょっと待って下さいね!」
冒険者の証と聞いて一瞬だけ何それ状態に陥るが、直ぐにどんな物か思い出すと自身の懐に手を入れて弄るようにして探し始める。
冒険者の証とは、その名のとおりで冒険者達の身分を証明するものであり色はブロンズ、シルバー、ゴールド、ダイヤモンドという風に色でランク分けされているのだ。
言わずもがな一番低いのはブロンズで俺が所持しているのはゴールドである。
「あ、あれ? ここに入れといた筈なんだけど……あれ!?」
しかし……なぜだろうか。一向に手にはそれらしき物が触れる感触はなく、唯一触れるのは銀貨や銅貨と言うお金だけであった。
……だけどそこで俺は悟らざる得ないこととなる。
これは紛れもなく何処かで冒険者の証を紛失しているという事実に。
「だ、大丈夫ですか?」
俺の動揺を見せたことで色々と察したのか受付の女性は苦笑いを浮かべている。
「す、すみません。失くしました冒険者の証……」
これ以上探しても出てくることはないだろうと思い正直に失くした事を白状した。
「紛失……ですね? でしたら再発行はできませので新たに冒険者登録をさせて頂きます。発行手数料として銀貨3枚お願い致しますね?」
「は、はい分かりました……」
再発行ができないというのは最初に証を発行した時に聞いていたから分かるが、それでも銀貨3枚というのは些か値が張るのではと思えてならない。
普通それだけのお金があればエッチなお店で6時間は余裕で過ごせるというのにだ。
これは冒険者の証を作り直したら簡単なクエストでも受けて、ある程度お金を作らないといけないかも知れない。今後の旅を円滑に続ける為にもだ。
「それではこの紙に自身の名前と使う武器や得意な役回りなどを記入してください」
女性が胸ポケットから名刺のような大きさな紙を取り出して渡してくると、俺は字を書くのが生前の頃から苦手だというのに更に小さく書かなければならないとして、まるで魔物と戦う時のように全神経を研ぎ澄ましながらペンを握り締めるのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます