2話「元ニートのおっさん、勇者一行から制裁を受ける」
その事を聞いて三人がそんなことを前々から話し合いで進めていた事実を知ると、なんだが無性に心の底から苛立ちという怒りの衝動が込み上げてくる。
考えれば中学生の頃も似たようがことがあるのだ。
修学旅行の時に友達が居ない俺は担任の独断により適当な班に組み分けされて、修学旅行中に邪魔だからという理由で知らない街に置いて行かれた思い出がある。
だからその事と今回のことを組み合わせるのならば俺という存在が嫌ならば、出会った当初に班に組み分けされた時に何かしら明確に嫌とか無理だとか伝えてくれた方がまだマシなのだ。
寧ろそうしてくれた方が無駄な時間を過ごさずに、しかも心に傷を負うこともないと言える。
なのにどうして時間が過ぎてからそうして後出しジャンケンのように言うのだろうか。
こっちは不器用なりにも迷惑を掛けないように頑張っているというのに。
そりゃぁニート歴が長いから人とのコミュニケーションは苦痛で仕方ないけどもさ!
しかし、しかしだ! それでもいきなりこれは酷いのではないだろうか……。
「予言では二刀流使いは最強の剣豪であり、勇者一行を魔王の元へと導くと言われていたんだけどね。だが実際はどうだい? 小物の魔物しか倒さず大物だけは私達に押し付けるという、ただの無能じゃないか」
俺が呆然として頭の中で独り言を呟いていると、その間にもセシールは理由を淡々と説明していたようで、勇者一行から追放する決め手となり得たのは小物しか倒さないからという理由らしい。
「貴方には期待していたのに、がっかりです」
「チッ、やっぱり男はダメだな。腰抜けばかりだぜ」
すると先程まで無言のまま壁際に立ち尽くしていた二人が口を開くと、ベアータは感情の篭らない声色でそう言い、ヴァシリーサは大きく舌打ちすると両腕を組みながら睨みを向けてきた。
「……た、確かにそれは事実だ。だがそうしないといけない理――」
そんな二人からの威圧感も絡み合うと弁明という訳ではないが、このまま俺不在で魔王討伐が成されることだけは避けようと思い、モニカのことや自分がここに来た理由を話そうと声を捻り出すが……
「黙れ。無能の言葉なんぞ聞きたくもない。それにもうキミの後継人には見つけているからね。……さぁ、入ってきなさい」
セシールは劈くように言葉で無理やり黙らせてくると、そのまま両手を叩いて後継人とやらを部屋に招き入れようとしていた。ということは既に俺の追放は紛れもない事実であり、ドッキリ等の可能性は完全に皆無となりえた瞬間である。
……だが聞いて欲しい。俺が小物しか倒せない理由についてを。
それは単純にモニカから言われた目立たないようにを追求した結果であるのだ。
理由としては大物の周りには必ず取巻きの小物が居るからだ。
ならば小物は俺が全て倒して美味しいところだけは、勇者一行に任せるというのが一番良いやり方なのではないかと。
そうすることで名声と実績が共に上がるのではないかと当初は考えていたのだが……。
「は、はいっ! 失礼いたします!」
その活気のある声と扉の開く音により俺の思案が中断させられると、背後からは茶色の長い髪を靡かせた女性がすぐ横を通り過ぎてセシールの椅子の横へと立つ。
見れば彼女の腰にはショートソードが携えられているようである。
「ふふっ、そんなに緊張しなとくも大丈夫だよ。この男は野蛮なオークと同等の価値しかない人間だからね」
茶髪の女性に対してセシールは優しい口調で語りかけると、この宝塚系の勇者が実は大の女好きであることを思い出した。森を出て直ぐに顔を合わせた当初も俺を見るなり露骨に嫌な顔をしていたぐらいで、恐らく彼女は男性嫌いの女性好きであるのだろう。
「……あ、そうだ。どうせなら殴ってみるかい? 無能な男を殴るのもそれなりに快感があるものだよ。それに今まで私達に追わせてきた負担を考えると腕の一本や二本、切り落としたいぐらいさ」
なにを考えついたのか急にセシールは手を大きく叩いて笑みを浮かべると、茶髪の女性に俺を殴らせようとする発言を何の躊躇いもなくしていた。一体彼女がどれほど俺の事を毛嫌いしているのか分からないが相当嫌われているという事実は確認できる。
しかしいきなりそんな事を言われても困るだろうにと茶髪の女性へと視線を向けると、
「えっ、いいんですか!? 実は私、男性の人を一度本気で殴ってみたかったんですよ! ありがとうございますセシールさん! ではさっそく遠慮なく殴らせて頂きます!」
どういうことだろうか彼女は意気揚々した表情で感謝を述べたあと拳を固く握り締めていた。
そして彼女は腰に力を入れるようにして体を動かすと、寸分の狂いもなく拳を俺の腹部に目掛けて打ち込んでくる。
「はあ!? ま、まって――――がぁっ!?」
一見大人しそうな茶髪の女性がこんなにもサイコだとは思わず反応が遅れると、彼女の拳は腹部に直撃したと同時に捻りを加えてきて更に衝撃を倍増させてきた。
「ううっあぁぁ……っ」
鈍い痛みと拳が鳩尾に入り込んだ事で両膝を床に付けると腹を抱えてその場に蹲る。
くそっ……とんでもない痛みだ。しかもなんだよあの茶髪の女は……なんで初対面の人間に遠慮なく全力のグーパンチがお見舞いできるんだよ……。この世界の女性は皆頭がおかしいのか?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます