勇者一行から追放された二刀流使い～仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い！～新たな仲間と共に魔王を討伐ス

プロローグ・女神と転生

1話「ニートのおっさん、恐怖する」

「さてっと……今日も今日とて働きますかね」

　俺こと無職歴18年のアマチュアニート【二龍隆史（にりゅうたかし）】の朝は早い。

　まず夜通しでプレイしていたオンラインゲームの疲れが抜けるまで泥のように眠り、そのあと深夜の2時頃に起床するのだ。

　この時点で既に朝ではないと思われるが俺のようなニート歴が二桁を超えた者にとって、もはや朝の概念は無いに等しい。

　つまり一度寝て起きたら例え外が暗くともそれは朝なのだ。異論は認めない。

「この時間ならさすがに全員寝てるだろ。というか起きていたら逆に怖いわ。刺されるかも知れん」

　近年は定職につかない俺みたいな駄目人間が多く居るらしく、親に愛想を尽かされて刺されて殺されるという、なんとも心臓を震え上がらせる怖いニュースが頻繁に流れるのだ。

　そしてそういうニュースを見て以来いつか自分も刺されるのではと心底怖くなり、部屋の扉の前にはラノベと漫画がぎっしりと詰め込んだ本棚を置いて簡易的にバリケードを作るほどである。

「まあ……そのせいで部屋を出るのも一苦労なんだけどな……」

重い本棚を自慢のか細い腕で何とか物音を立てないように動かすと、漸くドアノブに手が触れることができて慎重に且つ警戒しながら部屋の外へと出るのであった。

　――それから暗闇に包まれた廊下を歩き始めて最初に向かう場所はトイレである。

　そう、俺が最初に呟いた働くという言葉。

　全てはそこに集約されていると言っても過言ではないのだ。

「アマチュアニートとして！　一日たりともうんこ製造機の稼働を止める訳にはいかんのだ!　確か隣国のK国ではうんこをする度にアプリに金が入る仕組みがあるとかないとか某ネットニュースでみたしな！」

　もはや外との関わりを完全に遮断した俺がなにか出来るとしたらこれぐらいであり、今日も今日とて社会貢献の為にトイレの扉を開けようとドアノブを握り締めたのだが……

「だ、誰だ? こんな時間に誰か起きてるのか？」

　突然廊下奥のリビングから何やら視線を向けられているような気がして思わず視界を凝らして注視した。

　すると視界が段々と暗闇に慣れてきたらしくリビングに二人の影らしきものを捉えると、

「うっ、うわぁぁっ！？」

　自分でも分かるほどに情けない悲鳴を上げると腰が抜けたのか廊下に尻を落として動けなくなる。

　だがそうなることも無理はなく、何故なら視界には父と母が電気も点けずに暗い部屋で互いに無言のまま椅子に座り込んでいて、部屋の真ん中に置かれている机を凝視したまま微動だにしない異様な光景であるからだ。

「……おい、来たぞ」

「ええ、わかっています」

　奥の部屋からそんな二人の微かな声が聞こえてくると、俺の錆びた脳でもしっかりと理解できる。これはただ事ではない何かが起ころうとしているのではないかという事実に。