0.5

何かを忘れているーー。


ふと、そう感じた。


何を……?


しかし、考える端から思考がほどけていく。

ここでは何もかもが曖昧だ。

何もない、ただ真っ白な空間。

時間の流れですら曖昧で、時の流れの速さもわからない。

ここでただぼんやりと時間が流れていくのに身を任せている。

普通なら自身の存在すら曖昧になってしまいそうだが、彼にとってはそれは本質に近い。

そう、曖昧とした時間の流れ、思考さえほどけていくただ真っ白な空間の中で、しかし彼は自身というものをしっかりと保っていた。

自身の本質も、名前も、どのような日々を過ごしてきたのかも、何もかも覚えている。

そのはず、なのに、何を忘れているのだろうか?

何を、忘れているというのだろうか?

思考がゆるゆるとほどけていく。

何かを忘れているような気がするというその違和感自体が、どんどん薄れて消えていく。

その違和感が消える直前、一つの疑問が湧き起こり、そしてそれもまた消えていった。


そもそも、我は何故ここにいるのだうかーー?


***


「見つけた!」


小さな祠の前で女性が声を上げた。

そして満面の笑みで呟く。


「やっと会えるね、おりーー」

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