野良猫とご主人様

吟鈴

第1話 出会い

気付いたらここにいた。

温かな明るい家にいたはずなのに、寒くて暗い。

どうしてここにいるのか分からない。

分かるのは、あの温かな家にはきっともう戻れないということだけ。

あまり出たことのなかった外の世界はとても暗くて怖かった。

パパやママ、兄弟に会いたい…。

唯一の救いは、雨から守ってくれる傘が広げて置いてあることだった。

周りに人の気配は全くない。

通ったとしても、助けてくれるか分からない。

それでもあきらめたくなくて、力を振り絞って鳴き続けた。



鳴き続けてどれくらい経っただろう。

寒さも空腹もマックスだった。

ここで死ぬのかと諦めかけてた時、目の前に影がかかった。

目の前にしゃがみこんだのは、長い髪を一つに束ねた若い女性の人だった。

「行くところ無いの?」

優しくて暖かな声。まるで太陽のように暖かかった。

僕は肯定するように鳴いた。

「良かったら私の家に来る?」

その人が手を伸ばしてきた。

僕は迷わずその人の手にすり寄った。

もう一度捨てられるかもしれない。

でも、この人は僕の鳴き声に気付いて声をかけてくれた。

〖人間〗は悪い人だけじゃない。

これは自分に言い聞かせてるのか、それとも捨てられたという事実を無くしたいのか自分自身も分からない。

「さぁ、帰ろう。」

その人は自分が差していた傘を閉じ、僕の身を守っていた傘と僕を抱き上げた。

一日も経ってないが、人の温もりが温かく感じる。

きっと、体が冷え切っているのも原因だろう。

僕はその人に身を任せ、心地よく揺られながら夢の世界へと落ちていった。


これが僕〖紺〗とご主人様〖唯〗の1匹と1人の物語。

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