第10話

 山口の方も彼が男の娘だとしらされてどう反応して良いか分からなかった。

 来るのは男の子だと聞いていたが、この場には女の子がいる。

 正直結構かわいい。年甲斐もなくドキドキしそうになるが、その相手が男の子?

 思考がバグる。


 そもそもお祓いを頼む相手が高校生にも満たない子供だということで多少の不安はあったのだ。

「あ、あの。本当にだい……」大丈夫なんですかと言い切る前に修二が、

「大丈夫です。大丈夫ですって」と大声を上げた。


「いや、しかし……」更に言い募ろうとする山口に今度は声を潜めるように、

「お祓いをやる霊能者なんてのは変わりもんが多いんですよ。逆に、逆にですよ。普通の中学生のガキが来たらあなた信用できるんですか? 」

「それは、そうかもしれませんが……」


 言われた彼は改めてあゆみの方を観る。髪はボブヘアというよりも長髪のおかっぱだ。実は本物の髪ではない。一部には祖母、多津乃の髪が使われている特注品であり、霊力を増強する力を担っている。田村にそんな事わかるはずもない

 が、力のある霊能力者という前提でみると、頼もしく見えるような気がしないでもない。


「まさか、今更キャンセルはないでしょ? 」

「いえ。ここまで来たら、それはありません。お願いします」

「それはよかった。お任せください。ああ、そうだ。もう一人助手がおります。おい、挨拶しな」

「シロといいますです。よろしくお願い致しますです」

 修二の言葉を受けて身体のひょろ長い男がペコリと頭を下げた。


「はあ、よろしくお願い致します」

 言われた山口の視線は自然と男の頭に向いてしまう。

 シロと名乗った男、年は二十代前半だろうか年若く見える。が、髪は雪のように真っ白だった。


「まあコイツは雑用係ってとこなんでそんな気は使わなくていいですよ」


「では、今日はこのお三方で作業されるということですね」


「ええ。その通りです。まあ、ワタクシ共が来たからにはもう心配はありません。大船に乗った気持ちで居てくださいな」


「いい気なもんだね。自分はほとんど何もしないくせに」


「何言ってんのよ。アテンドしたり、資材運んだり働きまくりよ」


「アテンドっていう程のことをされったけな~」

 あゆみは皮肉っぽい口調で呟いた。

 アテンドとは本来、付き従って世話をしたり接待するという意味らしいが、どう考えてもそんな内容ではない。


 彼の記憶が正しければボッロボロのワゴンに荷物と一緒にシロと二人で連れ込まれたという感じだった。事情を知らない人がみれば事案と思われかねない絵面だ。


「まだ、何も始まってないだろう。これから、これから。お前が最高の環境でお祓いに励めるようにバッチリフォローするって。安心しなよ」


 そういわれたとて、なんの安心材料にもならなかったが、彼の言動に一々つっかかっても何の得にもならないことは分かっている。


 そんなやりとりをしている最中に隣の205号室の扉が開いた。中からは若い男が出てきて、この奇妙な取り合わせの4人組を不審気に見ながら横を通りぬけて行った。


「ここで突っ立ってても迷惑になりますな。始めましょうか」


 修二の言葉に皆一様に頷き、まずは車から荷物の運び出しを始める。


 内容は何箱かの段ボール。神具の八足台や三方。わら縄など。


 それらを山口も手伝って部屋に引き入れる事になった。


 誰よりも先に駐車場へ戻った修二はその中でも一番軽いA4サイズで厚さ5センチくらいの箱だけを持った。


 そして皆に先んじてマンションのエントランスドアまで戻ると扉を開け放ち、そこで後続を待った。やや少し経った後、かなり大きな木の台を山口が持ってくる。


 それに対して修二は扉を持ちながら(手がふさがっていてお困りでしょう。だから扉を開けておいてあげているんですよ。どうです? このワタクシの気の利きようは)というような顔をした。


「ありがとうございます」


 そう返す山口の両手はふさがっていたので確かにそのままでは扉が開かない。が、下に置けばいいことだ。寧ろ重い物をもっていたので、一度下におろして一息つきたかった。

 でも、修二がわざわざ扉を開けたままでまっているので仕方なく扉を抜けてそのままエレベーター向かう。


 すると更に修二はエレベーターに先じて入り、扉のボタンを押し続けた。そしてそのまま中で待っている。またしてもどや顔をしながら。


 その修二の様は楽をしつつ自分は気の利く男ですよ、仕事してますよアピールをする為の所作であることは明白だった。


 意図は完全に見抜かれている。

 が、他の全員。言っても無駄なだけろうと想い黙々と作業を進めていく。

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