第6話
「ただいま~」
鎌池修二は誰言うともなく言って玄関をあける。
廊下を進んで突き当りにあるリビングルームの扉。
すりガラス越しから伺える中の様子がいつもとは違っていた。
明かりがともっている筈なのだが妙にうすっ暗い。
因みに彼がすんでいるのは百鬼夜荘という共同住宅だ。
そして住んでいるのは全員人間ではない。
アカナメ、吸血鬼の親子、元神使の狐に化け狸の娘。雪女のハーフや天狗の長老などが暮らしている。かく言う彼自身も兄の康太も鎌鼬という妖怪だった。下の妹も住人の一人だ。
時間は23:00前。
この時間ならば、まだリビングに誰かしらはいる筈だし、明かりがついていてもおかしくないのだが「はて? 」想いながら扉を開けると大勢が食事をする為のダイニングテーブル前に数人が腰かけているようだった。テーブルの上にはロウソクが何本か置かれている。
その中の一人。金髪碧眼ストレートロング、見た目は二十代くらいの女性がいる。しかし、その正体は150年以上生きている吸血鬼のメアリークレイトソンだ。彼女はその年若い見た目とは似合わない口調で話し始めていた。
「40年程前に聞いた話なんだがね。アタシが教員を始めて間もない頃だよ。
新しく赴任した学校で歓迎会があったんだ。で、たまたま横にいたのが体育の先生でね。世間話をしている中で学生の頃とんでもない経験をしたっていうのさ」
その体育教師は町の郊外に住んでいた。歩いて通うには距離がある為に高校には自転車通学をしていたらしい。普段は舗装されて比較的平坦な道を行き来する事が多かったのだが、途中小さな山の中にある未舗装の道を使うとう近道があった。
正確に言うと行きは上り道になる。朝の急いでいる時間に使うと却って遅れる可能性があった。なので、たまに帰る時利用する程度のものだったという。
そもそもその道自体に利用者がほとんどいない。親からも特に夜遅い時間は危険なので近づかないようにと言われる場所だった。
が、ある時、部活の関係で大幅に帰宅が遅くなる日があった。学校を出たのが午後8時30分を過ぎ。普通に帰ると40分以上はかかる。しかしその日、彼は見たいテレビ番組があり9時には帰り着きたい。あの山道を利用すれば、15分ほどカットできるので十分間に合うはずだ。
迷った末、大丈夫だろうと山道へ向かった。実際、夜の山道は想像以上に暗い。
街灯もほとんどなく、頼りになるのはダイナモ式の自転車ライトだけ。
それが未舗装の赤茶けた土をボヤンと照らし出す。木立に囲まれた細い道を走らせながら、正直、後悔したがもう遅かった。今更戻るわけにもいかないのだ。
逸る心を抑えられず立ちこぎの体制に入り、ペダルを思いっきり踏みしめようとした。
すると、
ドンッ……
自転車に乗ったまま何かに身体がぶつかる衝撃。
そのまま、身体が投げ出される。幸いなことに転び落ちた先は草むらだった。それがクッションとなったんだろう怪我は擦り傷程度で済んだのだが、
「いって~な、なんだよ」
彼は悪態をつきながらどうにか立ち上がる。何かにぶつかった。が、人や動物をはねたわけではないはずだ。自転車のライトに照らし出された地面には何も映し出されていなかった。それより空中で何かにぶつかったように感じた。
木の枝だろうか? いや、明らかに違う。もっと、重量のあるものだった。何かがおかしい。そもそも以前、まだ明るい時間にこの道を通った時には何もなかった筈だ。想いながらとりあえずまずは自転車をさがす。
少し先に小さな街灯がぽつんとあるのみ。後はわずかな月明かりと星明りだけだ。
この辺は薄暗くわかりにくいがどうにか自転車の所在を見つけ出す。そこへ向かって歩き出した途端、
ドンっ
何かにぶつかり、それが音を立てている。これだ。先ほどぶつかったものだ。
同時に、
「ギー、ギー、ギー、ギー」
その物が音を立てている。なんだろう、暗くて良く見えない。
重量から一瞬サンドバックかなと思った。
友人がボクシング部に所属していて、遊びに行ったときに叩かせてもらったっけ。
手探りで触ってみた。重量はそこそこあるがサンドバックにしては薄く感じた。
ペタペタと触っている内にある瞬間ゾクッとした。
なぜこれをサンドバックだと思ったのか。サンドバックってどういう風になっているものだ?吊り下げられているものだよな。
そう、こんな誰も来ないような山の中。何かが吊り下げられているのだ。そして、今触った感触。明らかに人の手だった。
いやだ、信じたくない。でも、間違いない。
それは首吊り死体だったのである。
「自転車で立ち上がった所に丁度吊り下げられた遺体がぶつかったって訳さ。とんだ災難だね。その後、公衆電話で警察を呼んだりで大変だったらしいよ。でね、これだけだったら単なる事件なんだけど、こっからが怪談めくんだ。
というのはね、その木で首を吊った人が出るのは初めてじゃないらしいんだよ。辺りに住んでいた人たちの間では首吊りの木っていうんで有名だった。だから、夜には近づくなっていわれてたんだとさ」
と、そこまで話したところで、修二がテーブルについている内の一人に肩を叩いて言う。
「なにしてんのよ」
手を触れられた住人の一人、皿屋敷あきなは
「きゃ~~~~~~~~~~~~~~」
とど派手な悲鳴をあげたが、相手が修二だとわかると、
「どさくさに紛れて何触ってんのよ、このセクハライタチ」
と怒鳴りながらストレートパンチをお見舞いする。
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