第4話
「義兄は家に昔から居る社員に連絡して、一緒にマンションへ向かいました。マスターキーで表の扉を開けると、更に和室と洋室への扉がついているんですが……」
まず、和室を覗いたが特に問題なく誰もいないようだった。
次に洋室の扉に手を開けるが、開かない。
「鍵がかかってたとか? 」
「いえ。鍵がかかっているというより、何かが重しの様に置いてあって、更にひっかかっている感じだったそうです。とりあえず二人掛かりで体当たりをしました。すると、バタンと何かが倒れる音がして扉が開きました」
言った後、山口はその先を口にするのをためらうかのように黙り込む。
「大丈夫か? 話したくなければもうそれ以上は言わなくても……」
「いえ。ここまで来たら全て話します」
「そうか」
「扉の前には父が倒れていたそうです」
「ということは、引っ掛かっていたのは親父さんの身体だった? 」
「はい。しかも、ドアノブから伸びた紐が親父の首にくいこんでいたんです」
「な、なに?」
鎌池康太は言われたことの意味がのみこめず、頭の中の想像もおいつかない。
「ドアノブに紐をかけて座りこみながら首を吊っていたんです」
「そ、そんな事ありえるのか?」
「首を吊る方法としてそういうやり方があるというのは聞いたことがあります。ただ、自分の父親がまさかそんなことになるなんて思いもよりませんでした」
「……なんと。まあ」
すぐに救急車と警察が呼ばれた。が、救急隊員は孝之の姿をみるとすぐに首を振った。蘇生の余地なしという意味だろう。
その後、義兄の亮一と駆けつけた社員は警察に事情を聴かれ包み隠さず全てを話した。
普通なら信じてもらえないような内容かもしれないが、既に起きている二件の自殺。三件目の殺人事件でも警察は動いていたので、以外に話はスムーズに進んだという。
過去いずれの事件も不審な点はなく解決している。
山口孝之の件に関しても捜査の結果自殺という事で決着がついた。
「父の事も大変でしたけど、義兄も大変そうでした」
「そりゃあな。最後にやりとりしたのは、お義兄さんなんだろ。きっついなそりゃ」
「ええ。勿論、自分が止めてればとの想いは強かったようです。でも、父は言っても聞かない性質なのは家族全員しってましたので、誰も 責める者はいませんでした。ただ、それだけじゃないんです」
「まあ、仕事の事も含めて色々心労はあるだろうな」
「いえ、そういうことじゃないんです。こんなこと言っても信じてもらえないかもしれないんですが。奇妙な事がおきたんです」
そもそもここまでで十分奇妙なことが起きている筈だが、これ以上なにがあるのか。
「どんなことでもいいよ。俺もここまできたら全部聞きたいと想ってる。何でも話してくれ」
「はい。先ほど話した通り、父は義兄に対して1時間置きに定時連絡をおくってました。それが4時に途絶えたんです」
つまり、3時の定時連絡ではアプリを通じて「異常なし」の連絡が来た。
にもかかわらず、死亡推定時刻は午前2時頃の結果が出たというのだ。
つまり父親が3時に「異常なし」の連絡を打ち込んだ時、当の本人は既に死んでいたことになる。
「いや、しかしそれは計算が合わないだろう。なんかの間違いじゃないのか」
「ええ、警察も一応調べてはみたらしいんです。父と義兄のスマホ両方を調べましたがアプリの中身に矛盾はなかったそうです。とはいえ、検死の結果もかなり正確なものということで、何か機器の誤作動とかまあそんなところだろうと」
確かにその内容を義兄がいじったとしてもメリットがあるとも思えない。
「正直、義兄も訳がわからないと頭を抱えていました。更に……」
「なんだ。まだあるのか?」
「父と義兄の間で連絡はアプリを通じたメッセージと通話のやり取りでした。父のスマホは証拠として警察に預けていたんですが」
預けた翌日の深夜2:00頃に義兄のアプリの通話呼び出しが鳴る。
深夜の事だよっぽどのことかもしれない。
慌てて画面を見ると相手は亡くなった父からと表示されている。
驚きながらも通話ボタンを押すと、
「ギー、ギー、ギー、ギー、ギー、ギー」
何かがこすれるような音がきこえる。
驚きながらも義兄は何度か声をかけた。が、その奇妙な音以外に返事はない。
仕方なく切ったという。
翌日、警察に連絡をして父のスマホから義兄のスマホに通話したかを尋ねたがそのようなことはしていないとの返答だった。
そして、その場で警察は父のスマホを十分確認したので取りに来てほしいと言われた。仕方なくその日の内に取りに行き、持って帰ってきて確認するとやはり発信履歴は残っている。
それでも、まだ何かの間違いかもしれないと思うことにした。そしてとりあず、父のスマホは父の部屋に置いていた。その夜、深夜2:00義兄のスマホがまた鳴った。
表示はやはり父からだった。
恐る恐る出てみると昨夜と同じく「ギー、ギー、ギー、ギー、ギー」と謎の音がする。恐ろしかったが、通話状態にしたまま、父の部屋へ行きスマホを確認すると、誰もいない筈なのにアプリが起動していて発信状態になっていた。
流石に怖くなり、すぐに廃棄したという。
「マジかよ」
「マジなんです。で、よっぽど怖かったんでしょうね。本来は義兄が会社を継ぐ予定だったんです。ボクも異存はありませんでした。元居た会社に骨を埋めてもいいし、義兄の元で働くのでもいい。そう考えてたんですが、あの物件を扱う事に嫌気がさしたんでしょう。独立したいと言ってきたんです。仕方ないのでボクが後を引き継ぐ事になりました」
「なんだよ。厄介ごとおしつけられたんじゃないか」
「まあ、そもそもは自分の親父が残した案件です。義兄はよくやってくれたと思いますよ。このままいくと精神壊しかねない状況でしたしね」
「ん~、色んな意味でとんでもないな。じゃあ、その部屋は未だ手付かずで残ってるわけだ。流石に誰も入りたがらないだろうそんなところ」
「ええ。入居者は暫く0の状態でした」
「え? 」
妙な言い方だ。0の状態だったと過去形にしている。ということは、
「まさか、誰か入ったのか。そこ」
「私も迷ったんです。でも、このままにしておくわけにはいかない。そこへ訳ありのお客様が尋ねてこられまして」
そこで死人が出たということを伝えたうえで破格の条件を出して入居が決まったとのこと。
「や、山さん。そりゃ、しかし」
「自分でもこれが正しかったのか揺れてます。でも、そのお客様には何か異常があったらすぐに知らせてほしい。出ていきたくなったらすぐに他の当てを用意するとお約束しました」
「それで、原因を突き止めようというのか。流石に危険じゃないかな」
「……自分でも、許されない行為じゃないかとも思うんです。でも、どうしたらいいのか、分からなくて」
そう言う彼の言葉には嗚咽が混じっているようだった。
流石に康太もかける言葉を失う。
そこへ、
「お困りの様ですね」との声がかかった。
振り向くと、いつの間にいたのだろうか一人の男が立っている。
歳の頃なら30代前半だろうか、癖の多い髪をひっつめ糸のように細い目が特徴的だ。
知らない男だったがその顔はどこかで見たような気もした。
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