第27話 もう吠える準備はできている。
夕日に照らされ一面がオレンジ色に包まれる屋上。
授業後、海矢は彼らに言われた通り屋上に赴くと、そこにはすでに自分を呼び出した辰巳、竜、真心が待っていた。その側には愛海も立っており、どこか不安げな様子である。何故この場に愛海がいるのか疑問だが、共に学校生活を過ごす彼らの最近の違和感にも気づいていただろうし、今日は三人とも特別緊張したような面持ちだったため問い詰めて一緒に付いてきたのだろうと想像できる。
他にも、何故この三人は一緒にいるのかということに疑問を抱く。それぞれが自分の気持ちに気づいたならば当然彼らはライバル同士なはずで、共に行動をする、ましてやつるんで海矢を呼び出すなんてことをするということに違和感を覚えるのだ。
それに、海矢に報告するにしてもまずは愛海と両想いになることが先なのではないかとも思う。愛海と気持ちを確かめ合い、晴れて恋人同士となった後に兄である海矢に報告と牽制、宣言を行うのではないか。誰かに告白されたという話を愛海の口からは聞いていないし、普段の態度に気になる点もないので、そのようなことはなかったと考えられるのだが・・・・・・。
しかし、例え愛海がOKを出し恋人同士になったとはいえ、自分は承諾しないことには変わりはない。本人の意思を尊重することは大事なことであるというのは重々承知しているし、相手が愛海であるなら当然だ。
「(だが・・・・・・俺が嫌だ!!)」
と駄々っ子のような思いに海矢は支配されていた。愛海が見事恋人の座をゲットした相手に頬を染めて『ダーリン』とか言っていたら、歯ぎしりをして嫌な姑のようにその相手に嫌がらせをしてしまうかもしれない。そうしたら、自尊心を失い自分を愛海の兄だと思いたくなくなるだろう。
そうやって、海矢の中では可愛い愛海の気持ちを尊重してあげたい、だがそうなったら自分が嫌な自分になってしまうという二つの想いがぶつかり合っていた。
今海矢の前には今にも口のチャックが外れて熱い気持ちが溢れ出てしまいそうな、一触即発状態の攻略対象者たちが並んで立っている。その、緊張で張り詰めた表情でいる彼らを迎え討とうと海矢は仁王立ちして彼らが口を開くのを待っていた。
「まり兄・・・・・・、今日はまり兄に伝えたいことがあって呼び出したんだ」
「俺も・・・・・・あんたに言いたいことがある」
「僕も・・・・・・です」
すでに『お兄ちゃんは許しませんっ!』と言う準備はできている。さあ、いつでもかかって来い!!と意気込んでいると、辰巳が口ごもりながらいつもと比べて弱々しい声で今日呼び出した理由を述べる。竜、真心もがそれに続いて一歩前に出た。竜は柄になく自信のないような様子で、反対に真心は眉尻を上げ大変勇ましく見える。
「「「海野先輩っ!まり兄っ!、俺/僕の――
彼らが一世一代の告白をするかのように、力の入ったガチガチな身体で顔を赤く染めながら口を開いたのを見て、前世の記憶を取り戻した日――愛海が初めて複数人の男友達を家に連れて帰って来たのを目にしたときに吠えたあの言葉を発しようと、海矢は大きく口を開けた。
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