第10話 平和な生徒会



「まり兄最近忙しいの?全然会えないからさ」


「まぁな。それに、今日だっけ?委員会決まるんだろ。これからもっと忙しくなるんだよなぁ」


「ちゃんと休めよな。あっ、ほらコレやる!部活で時々食べるんだけど、疲れ取れるから!!」


「お、おう・・・・・・ありがとな辰巳」


「おうっ!」


 そう言って一年の下駄箱に走って行く辰巳に手を振り、海矢は自分の下駄箱へと向かった。手には先ほど辰巳から貰った梅を使った菓子。パッケージに描かれている梅を見ただけで口の中で唾液が沸いてくる。海矢は生徒会の仕事の合間にいただこうとそっと鞄の中にしまい、靴を履き替えて教室へと向かった。


 ********


「で、それは目を通してココにサインしたら、こっちね」


「はい・・・・・・」


 授業後の生徒会室では、引き続き会計を務めることになった生徒が竜に仕事の仕方を教えていた。本日最後の授業で各委員会の委員決めが行われ、今日は第一回目の委員会の日だった。そこで委員長と副委員長を決め、各々仕事内容を聞かされるのだろう。

 海矢のいる生徒会室でも今日から本格的に前期の活動が始まり、初めて生徒会の仕事をすることになった竜を慣れさせるため二年が付きっきりで面倒を見ていた。


「少し休憩しませんか」


「ふぃ~~やっと休憩か。疲れた~」


 書記が人数分持ってきてくれたお茶に、皆が会議机の周りに集まる。一緒に持ってきた籠の中には、今日も今日とて大量にある差し入れの菓子が山になっていた。

 皆が休憩する中、与えられた机で書類に目を通している竜の肩に触れると、集中していたのか驚きに跳ね上がった。


「おっと、驚かせてすまん。休憩した方がいいぞ。最初から根を詰めすぎると肩凝るからな」


「はい」


 おずおずと湯飲みを受け取り両手で持つ竜の大人しい姿に、海矢は思わず小さく吹き出してしまった。


「な、なんですか・・・」


「いや、お前、大人しすぎて・・・・・・いつも生意気だったから」


 そう言うと、竜は湯飲みから口を離し気まずそうに口を突き出した。


「生徒会の仕事中は、別ですよ・・・・・・。一応、先輩だし」


「お、一応ってなんだ一応って!」


「へぇ~、仲良いんですね海野くんと宇佐美くんって」


「演説の時竜くん威嚇してる猫みたいだったから、うわ~海野くんと相性悪そうって思ってたんだよね」


「ね!」


「ね、こ・・・・・・?」


 菓子に夢中になっている大空以外のメンバーが竜についての第一印象を語り、猫といわれた竜は普段この様な扱われ方をしないのかポカンとした顔をしている。それがまたおかしくて、海矢は椅子に座りながら彼らの交流を眺めていた。

 湯飲みの半ばまで飲むと、朝辰巳に貰った菓子の存在を思い出す。ちょうど目や肩も疲れてきたから、口に刺激を与えると意識もスッキリすると思い、鞄から出して一粒摘まんでみた。見るからに酸っぱそうで、食べる前から口の中が唾液で一杯になる。


「あれ、それ何?いただきー!って、すっっっぱ!!」


 摘まんだまま目の前に掲げていたら大空に横からパクッと食べられてしまった。口に含んだ瞬間口を窄め、目を瞑り酸味に悶えている。大空は常に菓子を頬張っているくらい菓子が好きなのだが、酸っぱいものだけは唯一苦手らしい。無理無理無理と言って茶を飲み、再び喉を押さえて悶えている。大空は熱い飲み物も苦手なのだ。喉が焼けるぅと口走りながらヒィヒィと息をする普段とは違った様子に、またもや笑みを浮かべてしまう。

 本当に、自分の周りにいるのは面白い奴ばかりだなと思った。







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