筒抜け?恋愛相談

 ……寝むれない。今までの用事を足す為のお出掛けと違い、明日は本格的なデート。

 秋吉さんは、友達モブと遊びに行くとしか思っていないかも知れない。でも、僕にとっては一大イベントな訳で……。

(秋吉さんに嫌われたら、どうしよう?)

 もし、何かやらかしたら?つまらないデートだと思われてしまったら?……織田君が来て『実ちゃんは迷惑しているんだよ』と断罪されたら……。

まだ何もしていないのに、色んな疑念が首をもたげ、僕を不安に駆り立てる。

気付くと涙が頬を伝っていた。

(僕……本気で秋吉さんの事を好きになったんだ)

 歌や漫画で片想いは苦しくて切ないと書かれている。僕は自信がなくて武田はつこいさんや秋吉さんと自分が傷つかない距離を保っていた。

それが少し距離を縮めた途端、切なさで胸が締め付けられている。

(……気分を変えよう。スリーハーツのラジオでも聞くか)

 こんな時は気分転換が一番だ。ラジオアプリを立ち上げる。


「今日のテーマは恋愛の悩み。悩みがある人は番組にメッセージを」

 タカがメッセージの募集を呼びかける……徹や竜也には恥ずかしくて言えないけど、僕の事を知らない芸能人スリーハーツになら言える……多分、スタッフに弾かれて、スリーハーツの目に触れないだろうし。

 そのままラジオを聞いていると、突然ユウの忍び笑いが聞えてきた。恋愛相談コーナーで、それはまずいと思うんだけど。


「ユウ、どうしたの?」

 ジュンがすかさずフォローをいれる。


「うん、今みたメッセージが、あまりにも可愛くて……ラジオネームはコックを目指している高校一年生さんからです。『明日、好きな子とデートなんですが、緊張して眠れません。こんな時は、どうしたら良いんでしょうか?』……ふ、二人はどう思う?」

 思いっきり僕のメッセージじゃん。メッセージを送る際、本名とか記入したけど……まあ、僕と気付く人はいないよね。


「良いねー。純愛って感じで。ほのぼのするよね」

 ジュンは好意的に捉えてくれているけど、答えになっていません。


「デート出来るって事は嫌われてはいないと思うぞ。それより、しっかり寝た方が良いぜ。不安にならなくても大丈夫だ」

 そうは言うけどスペック格差がね……スリーハーツの三人も僕と秋吉さんを見たら、納得する筈。


「メッセージによると、相手の女の子にはイケメンの幼馴染みがいるんだって……大丈夫。君には、その幼馴染みに負けない魅力があると思うよ。自信を持つのは無理かも知れないけど、後悔のないデートをして欲しいな。寝不足でポカするのだけは避けてね」

 ユウのアドバイスが妙に具体的だ……でも織田君の事とか、メッセージに書いたっけ?

 嫌われて元々。ユウの言う通り、後悔しない様に寝ます。


 緊張のあまり右手と右足が同時に出てしまう。流石にドタキャンはないと思うけど……待っている時間って、不安と楽しみが混じってなんか不思議な気持ちです。


「信吾君、おはよう」

 今日も秋吉さんは、可愛い。どう考えても、僕なんかデート出来る人じゃない。


「秋吉さん、おはよう。折角の休みの日にごめんね。兄ちゃん、なんで秋吉さんも連れて来いって言ったんだろ?」

 予想はついている。せつかさんが、秋吉さんを見たいって言ったんだと思う。兄ちゃん、雪華さんにべた惚れだもんな。


「ううん、私も食べるご飯なんだし。計画の段階から参加出来たら、リクエスト出来るしね」

 悪戯っぽい笑顔で笑う秋吉さん。可愛いだけじゃなく、気遣いも出来るなんて……彼女にふさわしい男になる道のりは遠そうです。


「あれ?今日お休みみたいだよ」

 秋吉さんの言う通り、店には定休日の札が下がっている。


「うん、だから、今日はこっち……おはようございます。信吾です」

 今日は休みらしいけど、そこは勝手知ってたる他人の家。裏口に回ってチャイムを押す。


「おっす。ちゃんと連れて来れたな……秋吉さん、おはよう。こいつ料理の事ばかりで一緒にいても、つまらないだろ?」

 兄ちゃん、なんて事を……でも、言われてみれば会話の半分は料理絡みかも。


「そんな事ないですよ。一緒にいると楽しいですし」

 良かった。でも、料理の話は否定しないんだ。気を付けよう……でも、なに話したらいいんだろう?


「それなら安心だ。俺も女房から包丁の話ばっかりって呆れられてな。まずは上がれや」

 僕と話す時の話題は大半が雪華さんなんだけどな。


「お邪魔します……凄い。お洒落」

 秋吉さんの目が輝いてる。確かに兄ちゃんの家はお洒落だ。


「全部、女房の趣味だよ。それで信吾林間合宿で作る物は決まったのか?」

 決まるどころか候補すら絞れていません。


「調べれば、調べる程分からなくなるんだ。出来る事が多すぎて、絞れきれないんだって……せかっくのキャンプなんだから、屋外でしか作れない料理にしたいんだけど」

 バーベキューや焼きそばだけ、じゃつまらないし……これって言うのが見つからない。


「おっ、良い顔出来る様になったな……よし、今日の昼飯はお前が作れ」

 いつもなら快諾するんだけど、今日は秋吉さんがいる訳で。でも兄ちゃんには世話になっているし。


「この馬鹿っ!信ちゃんのデートを邪魔してどうすんの?」

 スパンッと快音が部屋に響き渡る。雑誌で兄ちゃんを叩いたのは奥さんの雪華せつかさん。クールな美人で、兄ちゃんとは美女と野獣って感じ。でも、凄く仲が良い。


「嘘っ!氷室雪華さん!?」

 秋吉さんが雪華さんを見て驚いている。一方の雪華さんは唖然としていた……なんで秋吉さんが雪華さんの旧姓を知っているんだ?

キラキラした目で雪華さんを見つめる秋吉さん。状況が飲み来ず固まっている兄ちゃんと雪華さん。


「……いきなりすいません。私、氷室さんに憧れていたので」

雪華さんは昔ケーブルテレビのリポーターをしていたそうだ。その頃のファンなんだろうか?


「貴方が実ちゃん?……少し二人でお話しようか。ふむ……信ちゃん、料理よろしく。ちょっと、工房借りるね」

 雪華さんはそう言うと、秋吉さんを連れて工房に入って行った。僕と兄ちゃんは、完全に空気です。


「あいつ秋吉さんの話をしたら『信ちゃんが騙されていないか、私が調べる』って張り切ってな……なあ、信吾、お前これ作れるか?」

 兄ちゃんがアウトドア雑誌のページを指さす……確かに、これは良いかも。


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