胸を張って君に好きと言う為に ~リア充にもオタクにもなれない僕の恋物語
くま太郎
一分ちょいの失恋
自分でも間が悪い方だと思う。教室に忘れ物を取りに行こうとしたら、聞き覚えのある声が聞えて来たのだ。
……まさか、自分の悪口を直で聞くとは思いませんでした。
数十秒前まで“二人共まだいたんだ。一緒に帰ろう”って言おうとしてたんだよな。
「なあ、あいつ俺達と同じ高校に行くのかな?」
放課後の教室から聞こえてきたのは親友の声。
当然、モテるし友達も多い。
ちなみに僕の見た目はフツメン……の下の方、家の手伝いをする為に帰宅部。モテないし、親しい友達も少ない。
たった今、親友枠が消滅して更に友達の数が減りました。
「私は嫌だな。恋路と二人が良い。信吾、他の高校に行ってくれないかな。私の大事な幼馴染みは、恋路だけなんだよ」
次に聞こえてきたのは、僕が片想いしている女の子の声。
(高校どうしよう……告ればワンチャンあると思っていた自分を殴りたい)
その後も続く悪口のオンパレード。
どうやら僕は二人から嫌われていたようだ。
恋路を親友だと勘違いして話し掛けていた。美恵ちゃんと、仲が良いと勘違いして恋をしていたんだ。
でも二人共、僕が迷惑だったらしい。
(優しさを勘違いしていた痛い奴か……ごめんね)
情けなくて涙が零れてくる。そして僕は涙を流しながら、教室を離れた。
あんな本音を聞いて二人と同じ高校へは行けない。僕の名前は
◇
洋食屋ヨシザト、ここが僕の家だ。
僕が天才少年料理で、店を一人で切り盛りしているなんていう漫画みたいな展開はない。なにしろ、うちは爺ちゃんも父さんも健在。
僕が任させてもらえているのは、皿洗いと下ごしらえ位だ。賄いも作っているけど、テスト要素が強くて容赦なく駄目だしが飛んでくる。
だって、僕は漫画の主人公みたいな才能も情熱も持っていないし。
たまたま洋食屋に生まれたから、家の手伝いをしているだけ。
(進路なんて言おう……二人に嫌われていたから、別の高校に行きたいは通じないよな)
何かしたい事がある訳じゃないから、漠然と二人と同じ学校を選んでいた。
家からも近いし、偏差値も問題なし。行きたいから選んだじゃなく、行きやすいから選んだだけ。
リア充になれる様なスペックもないし、オタクになれる位好きな物もない。なんとなく無難に生きているだけなのだ。
「ただ今……あの進路変えたら駄目かな?」
今日は定休日で、みんな自分の用事がある。今ならスルーされる筈。
でも、僕の言葉を聞いて皆の手がぴたりと止まった。
「それで、なんで今更進路を変えるんだ?」
そして急遽開かれた良里家家族会議。
爺ちゃんが溜息を漏らしながら、問い掛けて来た。
「信吾の事だ。あの二人絡みだろ?何があったか言ってみろ」
爺ちゃんとお婆ちゃん、それに父さんと母さん。大人四人掛かりの尋問に勝てる訳もなく、洗いざらい言わされました。
四人とも頭を抱えていて、いたたまれない空気です。
「大きくなったと思ったら、まだ子供ね。そんな理由で進路を変える馬鹿がいますか」
案の定、母さんに叱れました。確かに進路指導の先生に言い辛い。
「二人と同じクラスになる事はないから、距離をとっておけば大丈夫よ」
お婆ちゃんが、すかさず外堀を埋めにきた。言い返したいけど、覆せる様な理由が見つかりません。
「いや、良い機会だ。信吾、お前聖ブロッサムへ行け」
爺ちゃんの提案に全員が驚く。
聖ブロッサムは隣町にある高校だ。元女子高で、お嬢様高校としても全国的に有名だった。
共学となった今でも校風は変わらず、優雅さや気高さを教育方針としているそうだ。
(聖ブロッサムなんて無理だよ!絶対にぼっちになる)
僕は小五からずっと店の手伝いをしてきた。お陰で料理の腕は上がったけど、流行の話題には全くついていけない。
「親父、なんでだよ。信吾がブロッサムに馴染めると思うのか?地元の中学でも、この有様なんだぞ」
パパン、フォローのつもりなんだろうけど、僕の傷まだ癒えてないんですけど。
「だからだよ。信吾、お前友達だって胸を張って言える奴何人いる?……いねえよな。学校で嫌な事があったら、厨房に逃げて来てたもんな。でも、そんなじゃ恋人はおろか本当の友達も出来ねえ」
ぐうの音も出ない。客商売をしているから、必要最低限のコミュニケーションはとれている。
でも仲の良い友達はいない。いわゆる上辺だけの仲。病気で休んでも、誰からもライソが来ないレベルだ。
「おい、親父。こいつがブロッサムに合格出来ると思うのか?」
父さんが心配するのには、理由がある。あそこは成績や内申書も大事けど、ブロッサムにふさわしい生徒であるかが重要視されるらしい。僕に優雅さや気高さとは縁遠い存在。
それに噂では見た目が良い程、合格しやすくなるって話だ。
「あそこの学園長は俺の幼馴染みだ。多少の無理は効く……信吾、お前ブロッサムに行け。そこで親友と恋人を作れ。料理屋は客商売だ。美味い料理を作れるだけじゃ、駄目なんだよ」
言いたい事は分かる。でも、無理です。
あそこは芸能人やお金持ちの子供が通うリア充と陽キャの巣窟なんだぞ。
親友はまだしも、彼女なんて絶対に無理です。
「無理だって!あんなキラキラした学校に行ったら、絶対に浮いちゃうよ。それなら元の進路に戻すって」
人気のアイドルに詳しくないし、今の流行も分からない。年中油まみれで、エレガントの欠片もない。
ブロッサムに入ったら、三年間一言も喋らなないで卒業する自信がある。
「駄目だ。ブロッサムに行け。店で関わるのは、お客様だけじゃない。仕入先や同業者とも交流が必要だし、タウン誌とかの取材もある。お前はブロッサムで今まで接してこなかった人達と仲良くなるんだ」
爺ちゃんの鶴の一声で、僕のブロッサム行きが決定。
不幸中の幸いと言うか、受験勉強に打ち込む事で二人の事を気にする事はなかった……正確に言うと気にする余裕がありませんでした。
でもね、ここぞとばかりに俺の前でいちゃつくのは止めて欲しかったな。話をしなくなっても、何も言ってこないし。
◇
幸か不幸か、無事にブロッサムに合格した。
試験に受かったら、面接は必要ないって言われた。
学園長はうちの常連で、爺ちゃんに“信吾君をうちの高校へ通わせろ”って言っていたらしい。
数ヶ月前まで僕は三人で通学していた。でも、今日からは
◇
無駄にお洒落で立派な白亜の校舎。そこに通うのは芸能人顔負けの美少年と美少女……絶対僕は場違いだと思う。
(胃が痛い。絶対にみんな“お前はブロッサムにふさわしくない”って、思っているよね!)
出来るだけ人目につかない様に端を歩く。
知り合いもいないし、終始無言。
そんな時、一人の少女に目が釘付けになった。
さらさらとしたショートボブの髪。澄んだ瞳、すらりと長い足。そして弾ける様な笑顔。
一目惚れだった。失恋を癒すには、新しい恋が一番だという。本当に、その通りで美恵ちゃんの事は頭の中から綺麗に消えていた。
(名前なんて言うんだろ?)
恋人は無理でも、友達にはなれるだろうか?
「
誰かが彼女に声を掛ける。実ちゃんって言うのか。
……嘘だろ?実ちゃ……実さんに声を掛けてきたのは、恋路以上のイケメン。そして、凄く仲が良そうだ。
へこんでいると実さんと目が合った……気がした。
「正義君が遅いんだよ……嘘!?」
確かに目は合っていました。でも、僕みたいのがブロッサムにいて驚いていた様です。二回目の恋は一分も経たずに、終わりました。
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