何でも屋3

風雷

第1話 外伝1 出発前

 「出来たああああああ!」

 突然、パンプキン家に大声が響き渡る。

 「何!?敵襲!?」

 その声に寝室で飛び起きたのはサリアだ。傍にあった目覚まし時計を見て時刻を確認する。時刻は朝の七時を回っていた

 「ったく。こんな朝っぱらから誰よ!」

 ベットから出て部屋の扉を開けると、そこにマリアとアメリアが通りがかった。

 「あっ、お姉様。おはようございます」

 「サリアお嬢様。おはようございます」

 「おはよう。それよりも、何かあったの?」

 「いえ。私達にも分からなくて」

 「それを確かめに今から向かうとこです。ですがあの声は、多分エミリーだと思います」

 「エミーか……あれ、地下に居なかったっけ?声なんか聞こえるっけ」

 「扉を開けているのでしょう。一緒に行きますか?」

 「そうねー。何かあったのかもしれないし」

 まだ眠そうな目を擦りながらダルそうに歩き始めるサリアの背中を、二人は追いかけた。



 エミリーがいる地下室に行ってみると、何やらぶつぶつと独り言を呟きながらあのロボット達を触っている。その顔はとっても嬉しそうだ。

 「エミー。声が響いてたわよー。起きちゃったじゃない」

 「あー!サリアお嬢様だー!おはようございまーす!」

 明らかにテンションがおかしい従者がそこにいた。

 「あんた……ちゃんと寝てるんでしょうね?」

 「えー?そう言えば、何時間前に寝たんだっけなー?覚えてないですー」

 「あぁ……そう……つまりは、徹夜をしてテンションがおかしい訳ね」

 「エミリーさんは大丈夫でしょうか」

 「大丈夫じゃなさそうだから、さっさと寝かしましょう」

 エミリーの体の心配をしつつも、そこまで集中してやってしまうあほらしさに、フッと笑いつつ部屋へと入って行く。

 「で、そんなに笑顔って事は、その子達は直ったのかしら?」

 エミリーの前にいる三体のロボットを見て、サリアは腕を組みながら訊ねた。

 「ええ!そりゃあもう完璧ですよ!」

 両手を握りしめて自信に満ち溢れた顔を向けてくる。シュヴァル達が捨てていった人型のロボット達。首が取れていたり、部品が露出していたり、ボロボロだったにもかかわらず、それを感じさせないくらい、新品同様に直っていた。

 「へー。流石はエミーね」

 ロボット達の周りを歩きながら見て感心する。

 「そうでしょう。そうでしょう。もっと褒めてくれても良いんですよ」

 「調子に乗らない。それに、それが取り柄なんだから、出来なきゃここから追い出されるだけよ」

 アメリアが感情の無い声で言った

 「ひ、酷い!アメリアちゃんそれは言い過ぎだよー!」

 「はいはい。ごめんごめん」

 アメリアが近付いてきたエミリーをなだめていると、急にロボット達が動き出し、その内の一体が喋りかけてきた。

 「おはようございます。マスター」

 「わっ!?びっくりした!?」

 目の前で不意に声を出されたので驚き、警戒もしつつ後ろに飛ぶサリア。

 「あっ!おはよう!体の調子はどう?どこかおかしいとこはない?」

 エミリーはすぐにアメリアから離れて、ロボット達の傍に行く。

 「私達を直してくれたのは貴女ですか?」

 「そうですよ。私ですよ」

 両手を腰に当てふんぞり返る。

 「ありがとうございます。マスター」

 「……マスター?」

 エミリーに対して発せられた言葉に、サリアは首を傾げ、疑いの目を向ける。

 「はい。そうプログラムが書き換えられた形跡があります」

 「……エミー?」

 「い、いいじゃないですか!直したのは本当ですし!私がそう呼ばれても!」

 「いや。別に責めるつもりはないわよ」

 「分かりました!お嬢様のことをマスターのマスターとして登録しときますもん!」

 「あんたほんと、少し寝なさいよ」

 サリアの言葉をよそに、エミリーは頬を膨らませてロボットに繋いでいるキーボードをカタカタと叩き始める。

 「はぁ。やれやれ」

 サリアはマリアとアメリアの方を向き、首を横に振る。それに、マリアは苦笑で、アメリアは無表情で答える。

 「で、何か情報はあったのかしら?」

 「情報?なんですかそれ?」

 エミリーは何を言ってるのか分からないと言った顔をサリアに向ける。

 「いや、メルちゃんの情報とかを引き出すために直してたんでしょ!!」

 「あぁ!そう言えばそうでしたね。直すのに夢中になってて、すっかり忘れてました」

 この時、サリアの中の何かが切れた音がした。

 「アメ、エミーをさっさと連れてって。そして寝かせなさい」

 「了解しました」

 「えっ?」

 アメリアは言われた通りエミリーの首根っこを掴み、引きずっていく。

 「ちょっと待って!?せめて、せめて立たせて!?立って自分で歩くから!聞いてる!?アメリアちゃん!?ねえ!?」

 二人は部屋を出て行った。

 「はーあ。寝直そうかしら」

 「お姉様、情報は良いのですか?」

 「えー?今日はもういいわ。そんな気分じゃなくなった」

 「えぇ……」

 サリアのいつもの調子に苦笑いを向ける。

 「マスターのマスター。私達はどうすれば良いでしょうか」

 01は笑顔で訊ねる。

 「まず、そのマスターのマスターって言うの止めなさい。私はサリア。こっちは妹のマリアよ」

 「皆さん、宜しくお願いしますね」

 「はい。宜しくお願いいたします」

 「んで、どうすればいいか、かー」

 うーんと唸った後、気だるそうに考えを告げる。

 「取り敢えず、マリアとアメの手伝いでもしてなさい」

 「かしこまりました」

 「それ、こっちに全部丸投げって事ですよね」

 笑顔を取り繕うマリアを置いて、サリアは欠伸をして部屋から出て行こうとする。その背中にマリアは急いで声を掛けた。

 「あっ。お姉様。ちょっといいですか?」

 「んー?どうしたの」

 呼ばれて振り返り止まる。両手を胸の前に合わせてマリアは訊ねた

 「皆さんはお名前とかあるんですか?」

 「我々はRH型と言って、私は01と言います。こっちが02。こっちが03でございます」

 「宜しくお願いします」

 「宜しくですー」

 手でそれぞれを示しつつ紹介をする。

 「なんか、可愛くないじゃないですか。コード名?って言うんですかね。ちゃんとしたお名前が欲しいなぁって思ったんですけど」

 「ふむ……成程……」

 マリアの提案に、顎に手を当てて顔を下に向け、考える動作をしたかと思うと、すぐに顔を戻し、得意げに告げた。

 「よし!今日からあんたがロア!あんたがロウ!あんたがロワよ!」

 「お、お姉様、それって……」

 「気付いた?流石は私の妹ね!アン・ドゥ・トロワをもじったの。01だから、ゼロとアンでロア。ゼロとドゥでロウ。ゼロとトロワでロワ。どうよこのネーミングセンス!ばっちりでしょ?」

 「……」

 マリアはどう答えればいいか迷ったが、サリアのネーミングセンスは知っているし、あまりにも綺麗にどや顔を決めてこちらに向けているので、いつもの調子でこう返答した。

 「はい。流石は私のお姉様です」

 「でしょー。じゃ、私は寝るから。おやすみー」

 「はい。お休みなさい。お姉様」

 「お休みなさいませ」

 颯爽と去るその後ろ姿は、何故かかっこよく見える。

 「……さて、どうしましょう?」

 残されたマリアはロボット達を見て困ってしまう。

 「何なりとお申し付けください」

 01改めロアが淡々と言った。

 「ロボットですから、それはもう色々出来ますよ」

 02改めロウがクールに言った。

 「頑張りますよー」

 03改めロワが無邪気に言った。

 「んー。取り敢えず――」

 サリアは両手を合わせて笑顔で考えを伝える。

 「お掃除、しましょうか」



 ロボット達が直ってから数週間が経っていた。今は皆でバルコニーでくつろいでいる。

 すっかりパンプキン家の日常に慣れ、楽しそうな日々を送っている。特に掃除に関して、広い屋敷をほぼマリアとアメリアの二人で担当していたので、とても楽になったとマリアが喜んでいる。

 そんな中、誰もが気が付いてはいたが、サリアが腑抜けているので、情報を得る事に関しては全く進んでいない。しかし、流石にこのままでは駄目だと思ったアメリアが話を切り出す。

 「サリアお嬢様。そろそろ、情報を聞き出してはいかがかと」

 「んー?あーそうねー」

 「気の抜けた返事ですね」

 「だってーやる気がねー」

 アメリアはもしやと思い、聞いてみた。

 「メルお嬢様に関する事ですよ?気にならないのですか?」

 「あっ!そう言えばそうだったわね!」

 「もしかして、忘れていたのですか?」

 「ち、違うわよ!?」

 (これは、明らかに忘れてたな)

 その場に居た全員が一緒の事を思った。最近、平和な日々が続きすぎていたからだろう。

 サリアが慌てたように席を立つ。

 「とにかく!ロア!貴女達にメルちゃんを連れ戻せと言ったやつの事を聞こうかしら」

 名指しをされたロアは、事務的に話し始めた。

 「私達にメルお嬢様を連れ戻すように命令したのはティレックと言う研究員です」

 「そのティレックとか言うやつはどうしてメルちゃんが必要なのよ」

 「研究に必要なのだとか」

 「その研究って?」

 「天使の力を普通の人間に発言できるかの研究です」

 「天使の力?何それ」

 「翼を出したり、剣を出したり、盾を出したり出来る力です」

 「……聞いても分からないわね」

 「とにかく、不思議な力という事です」

 「もうそれでいいわよ」

 「ちょっといいですか?」

 席を立ち、手と声を上げのはエミリーだった。

 「どうしたのよエミー」

 「貴方達を作った人が知りたいです!」

 「唐突ね」

 ロアが淡々と答える。

 「私達を作った博士の事は言えません。そもそも、そんなデータは元々無かったか、壊れてしまっていて私達も覚えていません」

 「えー……そうなんですかー……残念です」

 エミリーは肩を落として席に座る。

 「因みに、メルお嬢様の情報を手に入れるように指示を出されたのはそのお方です。ティレックと言う人物が何をやっているのか知りたかったみたいですが、関わる気は無いようでした」

 「ふーん。そいつが今何処に居るかとかも分からないの?」

 「はい。今となっては分かりません」

 「あっそ。じゃあ、そいつに関してはここでお終いね」

 サリアは話の流れを切るように手を叩いた。

 「あのー。良いですか?」

 次に手を上げたのはマリアだった。

 「どうしたの?」

 「その研究の内容って分かるんですか?どんな事が行われていたのかとか」

 「まず、メルお嬢様の血を採血します」

 「うん」

 「その血を普通の人間に輸血します」

 「うんうん」

 「力を手に入れるか。人間ではない何かになるか、大雑把に言えば、これが研究の内容です」

 「うん……ん?なにそれ?」

 「人間ではない何かって……一体?」

 「そのままでございます」

 「そう言えば最近、街中に化け物が現れたと騒がれてましたね」

 そう言ったのはアメリアだ。

 「そんな事あったっけ」

 「ありましたよ。少しは世の中の事にも関心を持ってください」

 「うーん……」

 咳払いをして話を続ける。

 「その時、その化け物を退治したのは二人の男と一人の少女だとか。もしかしたら、その方々は何でも屋の可能性がありますね」

 「あいつらが?信じらんないわね」

 「まぁ、はっきりとは分かっておりませんので」

 「それよりもその研究、凄く怪しくないですか?」

 マリアが不安そうな顔でサリアを見る。

 「そうね。人間を化け物に変えてしまうって、にわかには信じられないけど、結構やばいわよね」

 「因みに、今までの成功例っていくつなんですか?」

 「一人……いや、私達がこちらに来る辺りにもう一人成功者が出ていましたね」

 「二人だけって事……?つまり、それ以外は……」

 姉妹は同時に息を呑んだ。

 「はい。全員、化け物になり処理されたようです」

 「因みに因みに、その人達って、どっかから攫ってきたり騙して連れてきたりした人ばっかなんだってー」

 ロアを押しのけてロワが残酷な情報を笑顔で言う。

 「何よそれ……」

 「そんな……」

 二人は衝撃のあまり絶句してしまう。

 「メルちゃんはそれを知ってるのかしら」

 「確認しに行きましょう!」

 「えっ?」

 エミリーが今にも走り出しそうな勢いで立ち上がった。

 「んーまぁそうね。行きましょうか。あなた達はここにいなさい。屋敷に誰も居ないのは不安だし」

 ロボット達を見て指示を出す。

 「かしこまりました。サリアお嬢様」

 「さぁ!行きますよ!お嬢様方!」

 言いながらエミリーはバルコニーを出て行った。

 「あっ!こら待ちなさい!」

 後を追ってサリアも出て行く。

 「慌ただしいですね」

 「いつもの事でございます」

 落ち着いた素振りでマリアとアメリアも出て行く。

 「行ってらっしゃいませ」

 「行ってらっしゃーい」

 ロボット達の二人は丁寧に、一人は子供っぽく、主達を送り出した。

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