7.同クラさんは寝不足で距離感がわからない

 中間試験の5分前。

 いつもと雰囲気の違う張り詰めた空気の教室で、僕は教科書をなんとなしに眺めていた。


 急いでノートを見返していたり、カード型の単語帳を必死にめくっている人がいる。


 試験勉強って、一夜漬けとか、ましてや5分前にしても数問しか正解できないと思うけれど、気持ちはわからなくもない。


 僕はさっきから気になっていた隣の席を見た。


「あの……。大丈夫?」


 そこには、机に突っ伏した大人しめな女の子、同クラさんがいる。

 最後の追い込みで徹夜とかしたのかな。


 同クラさんは緩慢な動きで顔を上げた。


 その目の下にはびっしりと濃い隈が……。


「うわっ」


 僕はそれを見て、数秒遅れて驚いた。


「あ、おはよぅ」


 いつもよりものんびりした調子で同クラさんは挨拶してくれた。


「お、おはよう。どうしたの?」


「本を読んでたら気づいたら朝になってて」


 そう言って同クラさんはあはは、と力無く笑ったあと、ふわぁと小さく欠伸をして恥ずかしそうに頬を赤らめた。


 流石に毎回1位の同クラさんは一夜漬けとかしないか。


「勉強は普段からしてるから全然問題ないんだけど、試験中に寝ちゃわないか、ちょっと心配」


「寝不足に効くツボがあるらしいから押してみたら?」


「え? どこどこ?」


 同クラさんはいつもの控えめな調子とは違って、ずいっと積極的に身を乗り出してきた。


 少し顔が近い気がする。

 睡眠不足で距離感がわからなくなってないかな。

 まあ、いいや。


「たしかここだよ」


 と、僕は曖昧な知識で同クラさんに頭の中心とか耳の後ろのツボを教えた。


 同クラさんは次々と試し、また欠伸をした。


 あ……。


「これ、安眠できるツボだった」


「えぇ! それは、こまる、よ……」


 効き目が早すぎる気もするけど同クラさんはふにゃふにゃした様子で柔らかく抗議をしてきた。


 恨めがましい目で睨んでくるけど怖くはない。

 むしろ可愛い。


「あ、先生来たよ」


「もぅ……。私が寝ちゃったら君のせいにするからね」


「ごめんごめん」


 みんなが席につき、緊張感が走る静かな教室になる。


 チャイムと同時に答案用紙をめくる音が一斉に響いた。


 後日聞いたところ、同クラさんは問題なく全科目学年トップ。

 今回も学年1位になれたそうだ。




〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

今回の題目は「睡眠不足、単語帳、試験勉強」でした。

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