5.同クラさんは三点リーダーが多い

 チャイムが鳴り、授業が終わった途端に騒がしくなる教室で、僕は体をほぐすように伸びをした。


 次は移動教室だから早めに準備しないとな。


「あれ?」


 ふと隣を見ると、同じクラスの大人しげな女の子、同クラさんが雑誌を読んでいた。


「それ、なにを読んでるの?」


「……え?」


 同クラさんは顔を上げて僕を見た。


「…………パワースポット特集、だよ?」


「へえ、面白そう。どんなことが載ってるの?」


 僕が同クラさんに近づくと、ちょっと体をこわばらせた。


 もしかして、嫌われてる?


 気にしないように雑誌のページを見ると、そこには富士山の写真が。


 食べ物の情報も載っているのかデカデカと身延の名物、湯葉も載っていた。

 むしろそれがページの大半だ。


「同クラさんって、食べるの好きなの?」


「え、どうして……?」


「この前は先輩と一緒に小籠包を食べようって誘ってくれたし、今も湯葉のページで指が止まってるし」


 今気づいたと、同クラさんは雑誌と僕の顔を交互に見て、急に慌て始めた。


「あの、いやっ。これはっ……違うよ!?」


「じゃあなんで誘ってくれたの?」


「えっと……。その……。あの……」


 同クラさんは三点リーダーが多い。


「これは……たまたまで。あの時誘ったのはいい感じの雰囲気に焦った咄嗟の行動というか……。わ、私、そんなに食いしん坊じゃないよ?」


 上目遣いの早口で同クラさんは否定する。


 その時だった。

 くぅ……。

 同クラさんのお腹が可愛い音で鳴いた。


「あ」


 と僕と同クラさんの声が重なった。


 一拍遅れて、僕は思わず吹き出してしまう。


「うぅぅぅ…………」


 そんなに恥ずかしそうに唸らなくても。


「生理現象なんだから仕方がないよ」


 僕は笑い過ぎて出た涙を拭ってフォローした。


「次、移動教室だから早めに行かないとね」


 僕が席を立ち上がると、同クラさんは俯いたまま頷いた。


 教室にはいつのまにか僕と同クラさん以外いなくなっている。


「恥ずかしい……。勘違い、されちゃったかな?」


「え? 何か言った?」


「い、いやっ!? なにも言ってないよ!」




〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

今回の題目は「湯葉、リーダー、パワースポット」でした。

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