兄弟相争い
シヨゥ
第1話
「ないものはない。なら今できる限りで勝負するしかない」
城門から外を眺めつつ覚悟を決めたように久末は言った。
「逆茂木を並び立て、壕を掘る。かき集めた鉄を溶かして武具を作り、木を引き倒して盾や矢を作る。戦える男どもには戦闘訓練を、戦えぬ女子供には応急手当の訓練を。そうやって思いつく限り行動してみて備えるしかないだろう」
「降伏はしないのですね」
「反りが合わん」
「御兄弟ではないですか」
「そう思って何度煮え湯を飲まされたか」
久末は息を吐くと城内を見た。誰もが忙しく動き回っている。
「皆聞け!」
その声に誰もが動きを止めた。
「今一度問う。やってくるのは長兄、長久の軍勢おおよそ3千余。対して我らは5百余。援軍は期待できず、独力で長久の首を落とす以外に勝ちはない。正直勝ち目が薄い。だが昔っから反りが合わず、あれの下で働くのは御免だ」
城内から笑いが漏れる。それを制するように久末の手が上がった。
「この戦いは俺のわがままだ。わがままに付き合って死ぬ覚悟はあるか。それを今一度問いたい」
その問いかけに、
「応!」
と声が上がった。
「応!」
とまた声が上がる。その声に続けて次々と「応!」と声が上がっていく。
「よし分かった!」
久末が声を上げる。
「必ず勝つぞ!」
「「応!」」
山鳴りのような声が一体に響き渡った。
「というわけだ。帰って『降伏はしない』と伝えてくれ」
「……分かりました」
「世話をかけるな」
「いえ。ただ少し悲しく思います」
「悲しい?」
「はい。御二人が二度と轡を並べることがないと思うと」
「……あの世でならそういうこともあるだろうよ。さあ行った行った。あまり長居しすぎると寝返ったと思われるぞ」
そう言い残し城門を降りていく。残された老人はため息をつきその後に続いた。
「御武運を!」
馬にまたがると老人にそんな声がかけられた。居並ぶのは同じの年のころの男たちだった。
「お前たちもな!」
そう声をかけ老人は城を飛び出していく。その目には涙が浮かんでいた。
兄弟相争い シヨゥ @Shiyoxu
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