第6話 私は仲間が欲しい

「ちょっと、おっさん! ここは出会い系ギルドじゃないんだけど? こんなリクエスト受け付けられないわ!」


 冒険者ギルドの窓口嬢が声高に言うと、その言葉は周囲にも響いてフロアにいる冒険者たちが振り返った。


 その注目の中心にいるのは、体躯のよい中年戦士。

 顔にある刀傷が見る者を畏怖させるが、年中荒くれ者たちを相手にしている窓口嬢はそんなことではビビりはしない。


「何かおかしなところはあったか?」


 オージンは首を傾げつつ、自分が提出したパーティー申請書を見返した。


「希望する仲間の条件が『女性限定』ってところよ! いやらしい!」

「誤解だ。別に下心なんてないぞ」


 そもそもこのゴリマッチョのおじさんの中身は29歳と11ヶ月の女なのだと弁明したいところだが、ぐっと堪えた。


(だって、ここにいる冒険者の男って、みんな臭そうで野蛮そうで怪しくてキモいんだもの! 私が今まで遭遇してきた痴漢野郎の特徴そのままよ!)


 ギルドの中には待機所があり、そこではオージンほどではないが屈強な男たちが数人たむろっていた。身なりは汚らしく、冒険者なのか盗賊なのかわからないような風体ばかりである。


 一方、逆のテーブルには小綺麗な女性がしなやかに腰かけていた。男性読者が好きそうなボンテージ風の衣装に身を包んだセクシー美女である。


(パーティーを組むなら、汚いおっさんよりも美人なおねーさんがいいに決まってるじゃないっ!)


 そこで『女性限定』という条件を申請用紙に記入したのだが、それが窓口嬢の癇に障ったらしい。


「男女のパーティーは禁止されているのか?」

「そうじゃないけど、あなたが怪しすぎるのよ」

「俺が怪しい?」


 オージンは自らの体を見下ろした。


 真新しい衣服と鎧に、清潔な体のどこが怪しいのだ。よっぽど、そこにたむろっている冒険者たちの方が怪しいだろう。


「怪しいも怪しいわよ。45歳で初めて冒険者ギルドに登録なんて。それに、その図体でレベル1って……どう見ても素性を隠してる怪しい人なんですけど?」

「それは誤解だ。俺は何も怪しいことはしていない」

「いるのよね~レベルとスキルを隠して、新人として登録しようとする前科持ち。それとも初心者を食い物にしてる荒らしかしら?」


 なんてひどい言われようだ。

 この世界でも、中年の無スキル就職は厳しいということなのか。世知辛いものだ。


 だが、ここで引き下がることはできない。


 この冒険者ギルドに登録するためには、まず二人以上のパーティーを組んで、始まりのダンジョンの最奥にある『曙の印』を取ってこなければならない。それが最初のクエストだ。


(でも、あんなならず者たちとパーティーを組むのはイヤよ。それなら一人の方がまだマシだわ)


 しかし困ったことに、「二人以上」というのが初クエストの条件でもあるため、ソロでダンジョンに入ることはできない。


「ったく、今日は変な客が多い日ね。おこちゃまの次は、おっさんなんて」

「おこちゃま――ああ、さっきのぼうずのことか。何かあったのか?」


 オージンは今しがた、冒険者ギルドの戸口でぶつかってきた子供のことを思い出した。

 何か訳ありの様子だったが――。


 窓口嬢はやれやれと肩をすくめる。


「あの子、自分が16歳だなんて大嘘ついて冒険者登録しようとしたのよ。エルフでもない人間族なのに、ありえないわ」

「はは、大した肝っ玉だ」

「スネて逃げ帰るだけ可愛げはあったけどね~」


 まるで当てつけのように言い、窓口嬢はオージンを冷ややかな目で見つめた。


「冒険に憧れる年頃なのさ。追い返すなんて大人げない」

「こっちはただでさえ業務で手一杯なの。子供の相手なんてやってらんないわ。それと、めんどくさいおっさんの相手もね!」


 なんとか世間話で親しくなろうと試みたが、窓口嬢は冷たくオージンをあしらった。


 このままでは自分もあの子供のように追い払われてしまう。

 なんとかしなければ――。



「すみません、冒険者登録はできますか?」


 その時、一陣の涼やかな風が室内に舞い込んできた。




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