第12話 漱石と第十夜 前編
喉が渇くんだ
決して潤うことはない
物心がついた頃からずっと喉が渇いているんだ
窓の外はやたら天気が良かった
ただ青を見ていた
『よくやった!
今回の新作も好評だったぞ!』
社内に響くように話す上司のお褒めの言葉もそんなに興味が持てない
まるで他人事のように聞いているような聞いていないような
そんな僕にまるで気づかないように話続けいている
昔から何かをすればそれなりになんでも出来てきた
別に自慢をしているわけではない
勉強、スポーツ、人付き合い、、、
トップとまではいかないがそれなりの努力でそれなりの良い結果を出す
でも未だかつで熱を持って何かをしたことはないだろう
まるで何も興味がないみたいに
【心が動かない】
自分は何かが変なのか?
情熱が持てない
感情が枯渇しているのか?
周りを見ていると夢だの成功したいだの・・・
熱を持っているのか、熱を持っているふりをしているのか
そんな人ばかりで心の奥が見えない
まるでそうしていないと価値がないような
そんな気さえさせられる
窮屈な世界だな
やっと上司の呪縛から解かれ自分のデスクに戻ると今度は同期たちの歓迎を受けることになる
『すごいなー!
どうやって先生方に書かせてるんだよ・・・
俺なんて・・・』
出版社の担当編集の悩みなんて大体一緒
同じ毎日でそれの繰り返し
あぁ喉が渇いたな・・・
『漱石!
今日同じ経理課の女の子たちがまた漱石の噂してたよ〜
人気者だね〜!
なんだか鼻が高くなっちゃった♡』
甲高い声が耳に入ってきた
食堂で昼食をとっていた僕に声をかけてきたのは経理課の水沢香織だ
最近妙に声をかけてくるこの女性
香織は入社当初からその可愛らしい見た目とコミュニケーション力で男女ともに人気があった
先月会社の合同の懇親会で話をかけられてから懐かれたのかよく声をかけてくるようになった
同期たちからは羨ましがられるがなかなか騒々しいしそんなに良いものではない
むしろ若干の面倒臭ささえ感じる
『ねぇ!聞いてる?!』
『聞いてるよ
新人先生の話でしょ?
彼女がどうしたの?』
『なんでもね、ちょっと変わり者で本人は担当を変えて欲しいとは言わないんだけと担当の方が根を上げるらしいよ?
最初は美人で担当の人たちも喜んでたみたいなんだけど・・・』
『へぇー
変わり者なんじゃない?
そんな話聞いたことないな?』
別に興味もないしね
先生なんて誰でも一緒でしょ?
程よく低姿勢でお願いして煽て書いてもらって・・・
『本当に?同じ編集部で聞いたことないの?
漱石は興味なさすぎなのよー
私は興味津々なのに!
だって現代の夏目漱石と言われてる女性作家よ?
日本中が興味があるのよ?』
どうでもいいが昼食くらいは静かに食べさせせもらいたい
そんな何気ない昼の会話が引き寄せたのか翌日僕は彼女と会うことになる
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