第10話 蜂に刺された男と第二夜 前編
男は東京のとある下町で身を潜めている
なぜか?
現代で言うところのストーカーという類のものだからだ
ストーカーだと言葉が大袈裟なのかもしれないが陰から女性の家を見ているだけの日常を過ごしている
しかし、女性はあまり家から出てくるわけではなく男も何をするわけでもない
一体この男の目的はなんなのだろうか・・・
「この猫ずっと横にいるけどなんなんだ・・・
僕は今大切な人を見守っているんだから邪魔はしないように!」
・・・
猫は黙ったまま横目で僕を見ている
太々しい猫だな
なんで僕の横にいるんだよ・・・
「僕は・・・
夏目三夜先生を見守っているんだ!」
・・・この男、何やら三夜のファンのようだ
世の中色々な人間がいるもんだ
三夜は今話題の有名作家なのだからこういう輩が出てきてもおかしくはないが家の周りを彷徨くのはよろしくないであろう
男は見てくれはかなり整っている顔立ちにまだ幼さの残る青年だ
少しクセのある茶色い髪に大きく印象的な目、スッと通った鼻筋、薄く整った口
かなり綺麗な印象があるが・・・
言動がかなり残念としか言いようがないが普通に暮らしていば良い人生になるであろうに・・・
実に勿体無い
漱石といいこの男といい三夜に好意を持つ男はどうもどこか残念な印象がある
「夏目ー、夏目ー」
家の中から私を呼ぶ三夜の声がする
この男に悪意はないと見える
そのままでいいか・・・
「お!やっと離れていくのか!じゃあな!」
そう言ってニヤッと笑った男を横目にその場を後にした
家に帰ると喪服姿の三夜が言った
「もーどこ行ってたの
今日はおばあちゃんのお墓参りに行くって言ってたでしょ?」
はて・・・言ったか言わないか・・・まぁ・・・
「猫に支度はない」
そういった私にはいはいと返事し家を出た
三夜の祖母の墓は神奈川にある
電車で一時間半と結構な距離にある
狭いバックに入れられるが車窓から初夏の青々とした景色が流れ東京から神奈川へ入るとなんとなく、なんとなくではあるが土地が変わった雰囲気を感じることができるのは実に飽きない時間だ
駅から出て今度はタクシーに乗る
以前駅から墓地まで歩いた時は神奈川特有と言っていいほどの険しい登り坂に三夜が音をあげそれ以降タクシーで行くようになった
墓地の手前にある茶屋でお供えの仏花と線香を買って三夜の祖母、チエの墓へ行く
一通りの掃除を終えしばし三夜は墓地と向き合っていた
とても穏やかな表情で何か伝えることがあったのだろう
私は会ったことがないが三夜はとても祖母が好きだったことはわかる
あの三夜のイメージとは離れた平屋の一軒家もチエの家だったそうだ
墓地を出た後は祖母が生前通っていた寺へ向かった
入り口で住職と会った三夜は少し話してくると寺院の中へ入っていった
うむ
寺の中でも散歩でもするか
「お前・・・三夜先生の猫だったのか・・・」
その声に振り返ると朝、三夜の家の周りを彷徨いていた青年がそこにいた
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