【第二ノ怪】紫陽花の思い出 その23

 光っていたと思えば、すぐに消えた。


「あの……さきさん、これは?」

「ふふふふふ……成功ですね! 実は、春翔はるとさんに怪我をさせたこと、怒っていたんです。だから、『なんでも言うことを聞く』と言っていたのを思い出して、春翔さんと式神の契約をしてもらいました。だから、夜久やくはもう春翔さんの言うことには逆らえません!」


 幸さんは今までで1番悪い顔でふふふと笑っていた。

 夜久はものすごく面白く、ものすごくショックをうけた顔で立ち竦んでいた。


「幸……ひひひ、酷いぞ……式神の契約は主が死ぬまで一生なんだぞ……主が死んだら僕も死ぬんだぞ……鬼……鬼だ……酷すぎる……」

「うふふ……春翔さんには悪いですが、罰です。私、怒ったら怖いんですよ……皆さんもくれぐれも私を怒らせないように!」


 俺はその時、心の中で固くこう誓った。

(俺……絶対に幸さん怒らせない)





***

 夜久は俺の家で飼うことにした。


「やーん! 可愛いじゃん! もっと汚いの持ってくるかと思ってた! 可愛い〜! ねえ、名前は? 名前」


 結構、家族はノリノリで受け入れてくれた。これで一安心だ。


「名前は、夜久にした。どうよ、俺のネーミングセンス」

「え、まじいいじゃん! かっこかわいい名前〜はる、いいネーミングセンスしてんじゃん!」

「だろ!?」


「は〜いい家だ……」


 夜久もなんだかんだ満足のようだ。



 そう言えば、刀の姿になった椿貴つばきから最近何も応答がない。どうしてんだろな……生きてるか?

『生きとるしな! 鬼、舐めたらあかんで!』


 おおお……反応あり。良かった、心配したんだぞ。


『いやいや、春翔くん、君が何も話しかけてこなかったから、一応静かにしてたんだよ……だって喋ってたらうるさいだろ?』


 確かに……ありがとうございます。なんだか、話しにくいな……出てこれねえの?


『念話はなぁ……確かにな。実体化か……久しぶりにやるなぁ……できるかねぇ……うむむむむむ』


 刀がカタカタと揺れる。すると、刀が黒いモヤとなり、人型になった。


「ふう……これでどや! かっこいいやろ?」


 椿貴が出てきたのだ。


「凄いわ……やればできる子じゃねえか」

「えっ、そんなに褒めても何も出て来おへんで!」

「でもその姿はダメだと思う。兎に角、角隠せ」

「確かに! 春翔風な姿になろうかな!」


 椿貴が現代風な姿に変わった。


「は? めっちゃイケメンなんやが……腹立つ……」




 そうこうしているうちに、外は夕方になっていた。



 その頃、四片公園よひらこうえんの色とりどりの紫陽花は夕日に照らされて、雨粒がキラキラと輝いていた。その中でも一際美しく青色の紫陽花が妖艶に艷めく。


「……きれい」


 四片公園に遊びに来ていた男の子がうっとりとした目でぼそりと呟いた。

 まるで、青色の紫陽花に魅入られたかのように……

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