【第二ノ怪】紫陽花の思い出 その3

 ふむふむ、なるほど。智也ともやの件は分かった。それで俺はどうなんだ。なんで怪異に遭遇したら見えるようになったんだ? いろいろなものってなんだ? もう、なんだしか出てこない。頭がこれ以上働かない。



「私もなぜかは分からないのですが、たまに怪異などに遭遇してしまうと幽霊とか色んなものが見えるようになる人がいるんですよ。私の師匠が言ってたことには『“縁”が結ばれる』とか。なので多分、春翔はるとさんは繋がってしまったんだと思うんですよね、彼岸の存在と。それと、もともと春翔さんには見える素質があったんだと思います」



 彼岸って確かあの世のことだよな。怪異とかってあの世の存在系なんだ。いや、繋がっちゃったって、なんやねん。そういう系と縁が結ばれるとか全然嬉しくない。結ばれるならもっといい縁にして欲しかった。まぁさきさんと出会ったから、別にいいけどね。いいんだけどね。やっぱな〜嫌だな〜



 頭の中でぐるぐるとそんなことを考えながら、ふと幸さんが言っていた言葉を思い出した。

 

「幸さんって師匠がいたんですね……。というか幸さん何歳ですか。女性に年齢のことを聞くのはあまりいいことじゃないですけど……」


 ぱああっと顔を輝かして幸さんは元気よく返事をした。そんなにも自分のことを聞かれたのが嬉しかったのだろうか。我ながらいい質問をしたと思った。


「全然いいですよ、歳なんてバンバン聞いてくださいよ。今は20歳です。10月5日で21歳になります。師匠は八月一日古書店ほづみこしょてんの店主だった人です。店を閉めると聞いたものですから、私に師匠の大切な場所を守らせて下さいと言って、店主を引き受けさせていただきました。あっちなみに師匠は義理ですが私の母なんです」



 嬉しそうに話していた。母親だったのか。

 そんでもって、10月5日誕生日なんだ〜。よしっ誕生日プレゼント、今のうちから考えとこ。

 顔に出ていたのか奏多かなたくんが睨んできた。慌てて話題を切り替える。


「幸さんのお母さんは今はどちらにいらっしゃるんですか?」

「今は噺屋本部長をやっているので……京都にいます」

「はっ? えっ! 本部長って1番偉い人じゃないですか!? まじすか?」

「はい、まじです」


 まじか。めちゃくちゃすごい人じゃないか。

 本部かぁ。俺は一生関わることはなさそうだな。


「あ、そうだそうだ、噺屋には4ヶ月に一度ぐらいのペースで招集がかかるので、お2人にもついてきてもらうつもりなのでよろしくお願いしますね。なんせ私の弟子ですからね!」


 幸さんは思い出したようにパンっと手を合わせて、それからフンスッと胸を張って自慢げに言った。


「わかりました! ということは次の招集はいつですか?」

「前が4月だったので7月か、8月ですかね〜」

「7月だったらもうすぐじゃないですか! 俺たち、なんにも弟子らしいことしてないんですけど、行っても大丈夫なんですか? なんか言われる気しかしないんですけど……」


 本当に心配すぎる。絶対に何か言われるに決まっている。


「言われる可能性は高いかもしれませんが、それまでに何か成果を挙げればいいのです」

「成果を挙げるって、あと2週間もないんですけど……」


 すると、幸さんは机をバンと叩いて立ち上がった。


「そう、そこなんです! そこが問題なのです! 噺屋側に春翔さんと智也さんには価値があると思わせるのには、見えるだけでもすごいですが、その力を証明しないといけないんですよ。ただ……私も簡単そうに言ってますが、そう怪異は出会すものではありません。そこが問題点なのです」


 明らかに困っている様子だった。


 確かに問題は、時間の無さだよな〜。いつ召集がかかるのか分からないってのが困ったもんだな。

 まぁ、怪異とか妖怪なんてそう、うじゃうじゃいられても困るしな。




 あれこれと俺が思い悩んでいると、少し取り乱した様子だったさきさんは我に返ったのかゴホンと咳払いをして、

「今はこの問題のことは置いておきましょう。そのうち解決するでしょう。」

 と言って、黙々と話し始めた。


「では噺屋はなしやという組織についての話をしますね。噺屋とは皆さんご存知の通りのこと、怪異を退治する人たちの事を言います。そして怪異の原動力である言霊の力を吸い取り、自分の戦力にすることができます。それと、噺屋には春夏秋冬の4つの家があり、その当主たちが噺屋を取りまとめています。でも何故か、春の家だけ空席になっているんですよね……行方がわからないだとか。まあこの話は置いといて、それじゃあ実演するのでよ〜く見ていてくださいね!」


 幸さんは自信満々に話し終えると、経典を取り出した。

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