【第一ノ怪】ジグザグ足 その4
古書店に着くと、サキさんではなく、カナタくんが丁寧に傷の手当てをしてくれた。ズボンを脱がなければならないところに傷があったからだ。
もちろん女性にやらせる訳には行かない。というか恥ずかしい。
カナタくんはすごく嫌そうな顔をしていたけど。
「傷の手当てもしましたし、そろそろ始めましょうか」
「やるって何をですか?」
「あなたが今見てきたものの記憶を消すんですよ」
サラッと凄いことを言われた。サキさんはニコニコしている。
多分これも日常茶飯事なんだろな。
「いいですよ。やっちゃってください。覚悟は出来てます」
「なんだ、潔いじゃないか。他の奴らはそんなんじゃなかったぞ」
カナタくんがははっと笑っって言った。
サキさんはというとまじまじと俺を見ている。
そんなに見られると、いくら記憶を消しても消しきれないぐらいドキドキするじゃないか。そんなことを考えているとカナタくんが錫杖を構えだした。
「っちょっと待って下さい!」
記憶を消そうとするカナタくんをサキさんが止めた。そして俺も予想外だったことが起きた。
「渡瀬さんを弟子にしましょう!」
サキさんがキラキラした表情でカナタくんに話しかけた。
「…………! なんでですか! こんな男のどこに力があるんですか!?」
カナタくんは即答した。本人の前で結構酷いこと言ってるよ? まぁほんとだけど。
「うーん、なんでしょうか? "感"ですかね? 私の鋭い感が弟子にしなさいって言ってますね」
サキさんはいたって真面目な顔で答えた。
「
やっぱりさっきからすごい目付きで睨んでくるし、結構傷つくこと言われてる。しかも俺が話す間も無いくらい話が進んでいる気がする。
「ちょ、マジで待って下さい! なんで俺がサキさんの弟子になることになってるんですか?」
俺も反論してみる。
「そうですよ! この男も嫌がってますし、さっさと記憶消して、忘れさせた方が早いですよ!」
「でも遅かれ早かれ才能が開花すると思いますよ! 私の感が言ってるんです! これは間違いないです!」
お願いしますと、上目遣いで懇願していた。
ぐぬぬ……という感じでカナタくんは答えた。
「幸さんがそう言うなら仕方がないですね……いいですよ……」
オイオイ、カナタくん、なに負けてるんだよ。
「ということで、渡瀬さん、弟子になりませんか? もちろん拒否権はありませんよ。私たちのことを見てしまっているんですから」
サキさんはウインクをして、俺の弟子入りを促した。そこでウインクはずるいってば!
「うう〜タダで働かされるんですか? 奴隷ですか? それならほんとに無理ですよ。絶対に働きませんよ!」
俺はタダ働きが嫌いだ。物事にはなんでも対価ってもんが必要なのだ。
「実は噺屋には本部があるんです。そこからお金が貰えるんですけど、ざっとこんなもんですかね!」
サキさんは電卓にたたたんと打ち込んで金額を見せてくれた。
「!」
とんでもない値段だった。これならやってもいいかな!
「やります。やらせてください!」
頭の中でチャリーンというお金の音が鳴り響いた。俺はとんでもなく素晴らしいバイトを見つけてしまったようだ。
「ありがとうございます! では明日からよろしくお願いします。通常は古書店の店員として働いてください。で、たまに怪異退治です。自己紹介が遅くなってしまいすみません。私は
「改めて
ここから始まったんだ。俺と怪異を取り巻く人々とのどこか不思議で温かい物語が。よーし、頑張るぞ!
***
俺の調査報告を聞いたオカ研のみんなは目に見えてガッカリしていた。
かねさんがみんなのことを宥める。
「まぁホントのことか分からないもんね。証拠ないもん。今度はみんなで正体見つけようね!」
吉沢先輩はいつもながら元気に答えた。
「仕方がない! 今度は必ず正体をつかむぞ!」
おお〜とみんなの士気が高まる。
今はオカ研のみんなのことが気に入っている。オカ研って馬鹿だけど良い奴多いからな。
大学帰りに古書店に行く。今日からバイトだからだ。
おっ金〜おっ金〜と思いながら古書店に着いた。気持ちはもちろんルンルンだ。
「こんにちは! 今日からよろしくお願いしますね、春翔さん!」
「こんにちは! よろしくお願いします!」
突然の名前呼びでドキドキしたが、それを隠すようにして元気に挨拶をした。
「…………」
幸さんは元気に挨拶してくれたが、奏多くんは無視だった。冷たいね。
「そういえば今日の朝、あの女子高生を轢いたトラックの運転手が出頭したらしいですよ」
またもや突然のことでびっくりした。
「えっそうなんですか? というか、なんでそんなこと知ってるんですか? 新聞にも載ってなかったのに」
「警察の方に知り合いがいるんですよ。ああそうそう、その運転手、足を千切られるとか追いかけられるとか言って、半狂乱になって駆け込んで来たみたいですよ。早く捕まえてくれって、呪い殺されるって」
幸さんはいつも通り本を読みながらニコニコして言っていた。なるほど、幸さんは全て計画通りにやっていたのか……
「幸さんってなんて言うか結構簡単に嘘つくっていうか、怖いですね」
俺の言葉を聞くと幸さんは本から目を離し、俺に向かってこう言った。
「ふふふ……私、大嘘つきなんですよ」
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