初恋の行方

深海 悠

第1話 消えた初恋

 高校1年生の時、はじめて好きな人が出来た。

 窓際一番前の席に座る秋月あきつき君は、物静かで、いつも難しそうな本を読んでいた。成績良好、顔も良い。ただノリがいい方ではないから、クラスでは空気のような存在だ。席が近いこともあって、よくグループワークで一緒になるが、彼の動作や発言は無駄がなく、ひそかに彼に尊敬の念を抱いていた。

 好きな人が出来たかもしれないと親友のさとちゃんに話すと、「私、てっきり明日香は恋愛に興味がないんだと思ってた」と言われた。

 これまで友達の恋愛話を聞いてもピンとこなかった私は、ひょっとしたらアセクシュアルなのかもしれないと思っていたが、どうやら私も普通の人間だったらしい。

「ちなみに、その人、すでに彼女いたりする?」

 考えるフリをして、秋月君を見る。彼は今日も、自分の席に座って静かに本を読んでいた。

「どうかな。たぶん、いないんじゃないかな」

「そっか。やったじゃん。それで、いつ告白するの?」

「え?いや、まだそこまでは考えてない」

「告白するなら、早めにしたがいいよ。明日香がいいなと思うぐらい良い男なら、他の女子も狙ってるかもしれないし」

「でも、心の準備が・・・・・・」

「尻込みしてても始まらないんだから、勢いで言っちゃいなよ!あの時ちゃんと伝えておけば良かったって後悔するのは嫌でしょ?」

 里ちゃんの言うことは一理あると思った。

「そうだよね。私、告白するよ」

「その調子、その調子!フラれたら私が慰めてあげるからさ」

「ちょっと!告白する前からフラグ立てるのやめてくれる!?」

 里ちゃんは笑いながら、私の肩をバシバシと叩いた。

 その日の放課後、私は秋月君を裏庭に呼び出した。

「あの、ずっと前から好きでした。私と付き合ってください」

「ごめん」

 告白してからフラれるまで、たった五秒。私の初恋は呆気なく終わった。


◆◇◆◇◆◇◆


 週明けの月曜日、秋月君が私に告白されたことをクラスメイトに言いふらす夢を見た。私は学校に行くのが怖くなり、その日、仮病を使って学校を休んだ。自分でも馬鹿みたいだと思ったが、どうしても学校に行く気分になれなかった。

 親友に背中を押されて告白して、好きな人にフラれて学校を休む。私はなんて愚かなのだろう。天井を見上げて自己嫌悪に陥っていると、ベッド横の棚に置いていたスマホが震えだした。

「もしもし」

『明日香、風邪ひいたって聞いたけど大丈夫?』

「里ちゃん、心配かけてごめん。明日は学校に行けると思う」

『そっか、それなら良かった。あのさ・・・・・・』

 里ちゃんの声が急に低くなった。今朝見た悪夢を思い出し、嫌な予感がした。

『秋月君、今日限りでウチの学校に来なくなるんだって』

「は?」

『親の都合で、明日から東京に行くらしいよ。明日香が好きって言ってた人って、もしかして・・・・・・』

「違う!秋月君なんか、好きじゃない!」

 通話ボタンを切り、スマホをベッドの上に投げ捨てた。

「・・・・・・告白なんか、するんじゃなかった」

 私は泣きながら、誰かに好きにならなければ良かったと後悔した。その日を境に、私は他人と距離を置くようになった。

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