345 扉を開けて⑤

 ジェーンはやわらかなオレンジの髪に口づけ、鼻をすする。


「あなたを追って命を絶てば許されますか。それともロンに協力し国を再建することが、死者へのせめてもの慰めになりますか」

「……俺の女王様。俺を見て」


 そう言いながらダグはジェーンの腰を引き寄せる。それは、ひざに乗ってという合図だった。怪我にためらうジェーンの心を見透かして、ダグは「だいじょうぶ。痛みはないよ」とささやく。

 ああ。もう彼は、生者ではない。

 新たな涙をぽろぽろとこぼすジェーンをひざに上げて、ダグはあたためるように頬を包む。

 こうして向き合ってお喋りする時間が大好きだった。時々くすぐり合ったりわざと伸しかかったりして、最後はぎゅっと抱き締めてもらう。

 それだけで漠然とした不安もイライラも溶けて、やさしい気持ちになれた。


「戦争は大臣がはじめたことだ。止められなかった責任はみんなにあるよ。だから、ひとりで背負い込むことはない。ロナウドに協力するなんて論外だ。俺が化けて出てやるぞ」

「もう出たじゃん」

「アダム様は黙っててもらえます?」


 くちばしを挟むアダムと、じっとりした目でにらむダグを見ていると、ジェーンの胸は熱く震える。頬にあるダグの手にそっと触れた。


「では、すべてが片づいたらダグの元へゆきます。罪滅ぼしではなく、あなたのそばにいたいんです」

「あー、ごめん。それも許してあげられない」

「な……っ! そ、そこは喜ぶところです! 私の深い愛に涙を流したっていいんですよ!?」

「はははっ。やっと女王様らしさが出てきたなあ」


 感動の涙どころかのんきに笑われて、ジェーンはムッと唇を尖らせる。

 その時、手首がピリリと痛んだ。なにかにまとわりつかれるような感触がして、にわかに重くなる。

 アダムが鋭く鳴いて、ジェーンの肩から飛び立った。


「危険が迫ってる。もう起きないと!」

「そんなっ。ダグ、あなたに話したいことがまだたくさん――!」


 言うことが聞かなくなった両手をダグの大きな手に包まれて、ジェーンは口をつぐんだ。力強く引き寄せられて、鼻先が触れ合う。紫の瞳にジェーンを捉えたまま、ダグはやさしく額を重ねた。

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