344 扉を開けて④

 けれど彼のオレンジの髪は、気持ちよさそうに風にそよいでいた。そして、ゆっくりとジェーンを映した紫の瞳もまた、子どものように無垢な光を宿している。


「思い出してくれた?」


 ふっ、と息を抜くようにダグは笑みをほころばせた。


「泣かせ、ちゃうよな。ごめん。アダム様たちが創った〈木造人間クローン〉をずっと俺と思われるのも悔しいし、危険が迫ってたからさ」

「アダム様……」

「だってそうでもしなきゃ彼女が目覚めてくれなかったんだもん」


 そのバツの悪そうな声は部屋から聞こえた。目を向けると、青い光の玉が中から飛び出してきて、ジェーンの頭上を一度旋回する。そして欄干の中空に浮遊し、光の翼を広げた。

 青い羽毛はほのかに光をまとい、長い尾羽が優雅に風と遊ぶ。尾羽と同じハート型の冠羽かんうを揺らして、神鳥アダムは首をかしげた。


「ねえ。昔みたいに肩に乗ってもいい?」

「あ、はい……」


 ジェーンがうなずくと神鳥はうれしそうにさえずり、肩に飛び移ってきた。そしてジェーンの頬にすりすりと体をすり寄せる。


「きみは僕がいくら呼びかけても、ダグラスのことばかり気にしてた。だから彼のお人形を創ったのに、それでも目覚めなくて。ロナウドに相談したら記憶を消したらどうかって言われたんだ。それがきみを苦しめてるんだって」

「ロナウド……。アダム様はロン園長の企みを存じていたのですか?」

「うー。まあ、ね……。だって僕もイヴも人間が大好きなんだ。寂し過ぎてお人形を創っちゃうくらい。そしたらロナウドが人間の国を復活させてくれるって言うからさ。きみも喜ぶかなって思って」

「そうやってまんまと計画に利用されたわけですよ」


 ダグが冷ややかに言うと、アダムは飛びかかって彼の額をスコンッとつついた。ジェーンは思わずダグの頭を胸に抱いてかばう。

 ふいに懐かしさが込み上げてきた。ダグとアダムはあんまりそりが合わなくて、よく自分を挟んで言い争っていた。でもそれはケンカをするほど仲がいいというやつで、にぎやかな声をジェーンは愛しく思っていた。

 そんな毎日がずっとつづくと、あの頃は信じて疑いもしなかった。


「ダグ。私は神官として、取り返しのつかないことをしました」

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