329 ディノとカボチャ男①
「舞台よりも大切なものがある。想いはみんな同じっスよ」
うなずくことも微笑むこともなく、ただ数瞬だけ視線を交わした。それだけで十分だと互いにわかっていた。
ひとりじゃない。その思いが不安を溶かし、勇気を注いでくれる。
今、ひとりぼっちでいるディノはどんなに、心細いだろう。
* * *
『ディノくん。どうして保育園に行かないんだい』
『やだよ。こわいもん……』
『どうして?』
『だって、みんなオバケだもん……。ロンがいないとぼくは、ひとりぼっちなんだ……』
『おいで。僕以外にもね、ディノくんと同じ人がひとりいるんだよ。会わせてあげる』
そう言ってロンが連れていった先にあんたはいた。
『きれい……。だれ?』
『きみの許嫁……いや、お嫁さんになる人ってわかる?』
『わかんない』
『じゃあ、ええと……。あ、ほらこの前読んであげた本に、王子様とお姫様が出てきたよね』
『うん』
『彼女はきみのお姫様だよ。そしてきみが王子様だ。いつかきみがここから彼女を助け出して、守ってあげるんだよ』
『……しあわせにくらして、めでたしめでたし?』
『ふふっ。そうだね。ずっといっしょに暮らすんだ』
『ずっといっしょにいてくれる……ぼくとおなじ、おひめさま……』
その日からあんたに会うのが待ち遠しくなった。
周囲の人間への違和感は拭えなかったが、俺にはロンとあんたがいればいいと吹っ切れることができた。あんたに会った時、恥ずかしくないように勉強も運動もがんばった。
あんた、俺よりずっと大きかったからな。
なのにいつの間にかあんたと同じくらい成長していた。そして見る見るあんたは小さくなって、俺はロンのウソに気づいた。
『あんたがずっと目覚めないのは、俺があんたの王子様じゃないからだろ』
それでも。
それでも、もう。心の焦げ跡は消せなくて、ヒリヒリと求めてしまう。
「そっかあ。お前はずうっと、あいつを見守ってくれていたんだなあ」
思い出を映す夢の中に突然、知らない声が割り込んできて目を剥く。その男は大きなカボチャをかぶり黒いマントを背負って、俺の足元であぐらをかいていた。
あんた誰だ?
「だったらお前に託してもいいかも。いやまあ、俺にはもうどうしようもないんだけど」
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