295 ロンの提案②

「……ジェーンは仮装、する?」


 袖を引いてささやかれたおうかがいに、誰が難色を示せるものか。今日も先輩は女子以上にかわいいです。思わずふにゃりと笑ってうなずくと、クリスは目を輝かせた。


「それじゃジェーンの衣装、僕が考えていい!?」

「はい! ってこういう話、演劇部でももっと早く出てもよかったですよね?」


 どこよりも盛り上がりそうな人々が集まった部署だ。しかしジェーンは稽古場やシェアハウスに限って、パーティーの話を聞かなかったことに気づく。


「ああ。演劇部はショーの衣装でパーティーに参加するから、ショーの延長って感覚なんじゃないかな。特に今年は日曜がハロウィンだから、パーティーはショーの直後だし」


 クリスの言葉に合点がいく。ダグラスたちはどちらかと言うと、もてなす側ということだ。確かにパーティーを盛り上げるなら、華やかな演劇部ほど適任者はいない。花形の辛いところだ。


「しかしロン園長って粋な人だよな。パーティーもそうだし、従業員の両親向けに毎年ペアチケット配ってるんだぜ」

「ほんとにね。そのお陰で僕もお母さんに親孝行させてもらってる。ありがたいよ」

「家族思いな方ですよね」


 深くうなずき合うレイジとクリスを見ていてよみがえるのは、息子ディノのことを話すロンの姿だ。

 ルームメイトとうまくやれているか心配したり、仲よくなれたと知れば自分のことのように喜んだりする。ロンとディノの間には本物の親子、いやそれ以上の固い絆が結ばれているんだと感じられた。

 それにジェーンに対しても、ロンは父親代わりのように甲斐甲斐しく世話を焼いてくれている。


「ああ、ジェーンくん。ここにいたんだね」

「ロン園長!」


 噂をすれば、ロンが源樹イヴ方面の通路からにこにこと歩いてきた。探していたところなんだ、と言う上司にジェーンはきょとんと首をかしげる。


「なにかご用ですか?」

「今日は僕からランチのお誘いだよ。大事なお話があるんだ」


 そう言いながら、ロンは申し訳なさそうにクリスとレイジを見やる。その視線の意を汲んだふたりは、笑って身を引いた。


「僕たちは構いませんよ」

「ええ。彼女と食事するのはまたの機会にします。じゃあまたな、ジェーン」

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