289 ディノの隠しごと②
自分の名前が耳に飛び込んできて、弾かれるように振り返る。部屋にダグラスかルークでも来ているのか。そして自分のことでもめている?
ジェーンの決心は固まった。自分の問題でルームメイトをわずらわせるなんて情けない。それに扉の向こうでぐるぐるしていたって、ディノの気持ちを聞くことはできない。
「ディノ、失礼します!」
拒まれても話がしたい。そう意気込んでいたジェーンは、返事も聞かずに部屋へ踏み込んだ。
目を見開いたディノと視線がぶつかる。軽く室内を見回して、ジェーンも目をまるめた。部屋にはディノしかいない。個人用電話機がある様子でもない。
静かに混乱するジェーンから、ディノはさっと袖を下ろして右腕を隠し、舌打ちした。
「……風呂に入ってくる。そこをどけ」
ベッドにあった着替えを掴むなり、ディノはジェーンを押しのけて出ていこうとする。
しかしジェーンは気づいてしまった。ベッドサイドのテーブルに、赤い染みのついたティッシュが置かれていることに。
「待ってください! 行かせられません。怪我してるんですよね? 治療は!?」
「構うな。そう言ったよな」
「わ、私は、了承していません」
「ジェーンちゃん? なんかあったんスかあ?」
そこへ、向かい部屋のルークがひょこりと顔を出した。するとディノはあっさり身を引いて中に戻る。よくわからないがこの好機を逃す手はない。
「いえっ、なんでもありませんよルーク! ちょっとディノとお話をしたいだけですので、お気遣いなく!」
「え、部屋で? それならリビングですれば――」
ごめんなさい。心でルークに謝りながら、ジェーンは扉を閉めた。後ろ手にそろりと鍵をかけて、つまみを鉄で覆う。
ディノはサイドテーブルのティッシュを紙袋に入れていた。それをねじり潰してゴミ箱に投げ捨てる。ルークにも、ルームメイトの誰にも傷を悟られたくないようだ。
「その傷は、どうしたんですか」
ジェーンはディノの右腕を注視した。袖で隠した下に傷があるに違いない。見たところ動きに違和感はなく、ディノも涼しい顔をしていた。
「別に。枝でちょっと切っただけだ」
「ディノがですか? そんなミスをするとは思えませんが。だったら、救護室で診てもらったんですよね」
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