285 It's show time⑥

「……うん。私もそう思います」


 どんな宝石よりも美しい瞳を包むように、ジェーンはカレンの頬に触れた。

 湖で質問をぶつけられた時、答えることができなかった。記憶を失うと同時に自分も見失い、その価値がわからなくなったジェーンには、判断できるだけの材料さえ残っていなかった。

 だけど、今ならわかる。信じていた過去をダグラスに否定され傷ついたからこそ、なにが大切なのかはっきりとした。


「忘れても見ないふりをしても、自分とは切り離せません。だったら逃げずに自分を好きになる努力をするしかないですよね」


 みるみるとカレンの目に涙がにじんでいった。悲しみか喜びか判別できずおろおろするジェーンを、カレンは再びぎゅっと抱き締める。その時、心底安堵したようなあたたかい吐息が耳に触れた。

 見つけられたんだ。カレンは信じられる一本の道を。


「なあんかめでたそうだから、ジェーンちゃんの胴上げいっとくっスか」


 にょきりと生えてきたルークにそう笑いかけられて、ジェーンはぎょっとする。しかも円陣集団から「おー!」と賛同の声が上がった。


「素敵! クリスさんも胴上げしようよ!」

「げっ。僕はいいから! お構いなく!」


 つづいたプルメリアの提案に、すでにラルフとレイジに巻き込まれて円陣を組まされていたクリスは顔を引きつらせた。

 ジェーンも遠慮したが、ダグラスとルークに腕を捕まえられ、あえなく円陣へと連行されていく。


「いや、あの、それはまだ早くないですか!? お客さんのちゃんとした反応がわかってからじゃない、とお!?」


 円の中心に突き飛ばされてよろめく。犯人と思しきルークは、実にいい笑顔だった。


「んじゃあ、とりま無事初公演が終わったお祝いってことでもいいっスよ」


 でもってなに!? 反論する間もなく、わらわら寄ってきた演劇部員と整備士たちによって、ジェーンは寝転がされる。不安定な姿勢に息を呑んだ次の瞬間、照明がぶら下がる天井へ押し上げられた。


「いやあああ!? 怖いっ、もういい! もういいですからあああ!」

「いいなあ。そこは普通、監督だろ」

「だったらジャスパー部長と替わりますううう!」

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