261 狂うほど愛しい①
「なあ。お前はどうしてそんな風に魔法が使えるんだ?」
空に語りかけるように、最初から答えを期待していない声だった。ジェーンは質問の意図も掴めず、言葉に迷う。
「そんなって、どんな感じでしょうか」
「んー。普通の創造魔法士なら車を運転するようなものだが、お前は車自体が運転してるみたいだ。お前が想像をもって魔力を従わせるんじゃなくて、魔法がお前の想像を汲んで応えてる」
「それはクリスやニコライ部長とは違うんですか?」
ジャスパーは振り返っても、口に拳をあて黙っていた。サングラスに隠された瞳の奥で、なにを思うか読み取れない。
けれどまっすぐに注がれる視線は、ジェーンの輪郭を、はたまたその枠組みを超えた目には見えない気配を、掴もうとしているようだった。
「お前はどこから来たんだろうなあ」
「ジャスパー部長……?」
「ん? ああ、悪い悪い。住所とか出身地の話じゃねえよ。たとえばジェーンは、創造魔法の化身かもしれないって空想するとおもしろいだろ」
うれしいような照れくさいような心地がして、ジェーンはわざと唇を尖らせた。
「また変なあだ名増えそうだからやめてください」
「ははは! 悪いな。謎めいたものに出会うと、人はあれこれ想像しちまうんだよ」
肩を叩いた手にうながされて歩き出す。どこの誰だとか気にせず、謎を謎のまま楽しめるジャスパーに、少しだけ心が軽くなった。
帰ったらとりあえずダグラスに謝ろう。上向きはじめた心でそうと決めて、ジェーンはロッカー室で手早く帰り仕度を整える。いつもより一時間ほど遅くエレベーターに乗り込んで、地上に出た時だった。
「ダグ……?」
ガーデン正門前の広場に植わった木陰で、佇む彼を見つけた。ダグラスもジェーンに気がつき、片手を挙げて歩み寄ってくる。
私を待っていた?
つい淡い期待を抱いてしまう胸に否定をぶつける。けれどダグラスは、変わらないあたたかな瞳で笑いかけてくれた。
「ジェーンを待ってたんだ。いっしょに帰りたくて」
どうしよう。舞い上がる単純な心を止められない。
だけど今度こそ、取り返しのつかない失敗をしてしまった。ボートの上で向き合ったダグラスに、簡単には拭えない不信を与えてしまったに違いない。
この喜びは厚かましいだろうか。
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