259 ジェーンの失敗④

 ふと、うつむいた視界にひらひらと手が映り込む。


「じゃあ早着替え、さっそくやってみてくれない? どんな感じかずっとわくわくしてたんだ。あ、あんまり動かないほうがいいかな」


 ジェーンはそろそろと目を起こしてみた。ダグラスが自分に向かって両手を広げていた。あたたく受け入れるようなその仕草に、心が少しだけほぐれる。

 しかしダグラスの顔を見ようとした瞬間、過ってしまった。

 戸惑い、憐れみの含んだ眼差し。その目をしている時ダグラスは、まったく知らない人の顔をしている。


「はい。やってみましょうか」


 レッスン着のシャツに向かって返事した。ルームメイトたちの目もあり、断るわけにもいかずジェーンは手を上げて構える。

 正直、その時のジェーンにロジャー王の衣装など頭になかった。ダグラスにどう思われているか。嫌われていないか。恐怖と祈りに囚われたまま、いつもの習慣だけで魔法を使う。

 ダグラスのレッスン着が、足元から瞬時に白く染まった。そこから布が水を吸い上げるように色を変えていく。魔力をまとった糸が走ったところから、簡素なレッスン着に装飾がほどこされる。

 気づけばジェーンの向かいには、白銀の鉄靴かなぐつがあった。あれ、おかしい。ロジャー王の衣装は黒い靴だったはず。


「えっとお。これって整備士の制服っスか……?」


 ルークの困惑した声にジェーンは目を見張った。ダグラスはハロウィンの衣装ではなく、青い服を着ている。

 白のロングブーツに太めのベルト、ストライプ模様の入ったチュニック。それは一見するとルークの言う通り、整備士の制服に似ていた。


「でもちょっと違うわね」


 ダグラスからジェーンに移ったカレンの視線に、指先が震える。

 ビニルと布を張り合わせて創った整備士のブーツと違い、ダグラスは鉄製の軍靴だ。ベルトにはいくつもの大ぶりなポーチを下げている。

 そしてストライプ模様に見えたのは、ショルダー型のベルトだった。細い筒状のものを入れるポケットが並んでいる。

 どこかで見た光景だ。思い出そうとするまでもなく、視界がブレてふたつの世界が重なる。夢の中で頻繁に外へ出るようになったダグが、目の前に立っていた。

 彼は眉をひそめ、なにごとか話しかけながらジェーンに手を伸ばす。

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