256 ジェーンの失敗①

 そして頭にはつば広のとんがり帽子。しかし細く尖った先端は前に曲がり、顔半分を覆い隠している。それは鳥のくちばしのように硬く光を弾いていた。


「ドーナツと魔女とカラスですね!」

「当たり。ジェーンが言った通り、このスカートでダンサーに弾んで欲しいんだ。お客さんが楽しんでくれるかなと思ってね」


 ドーナツスカートに触ってみると、見た目に反してやわらかい。中は空洞で空気が入っているようだ。ダンサーの動きを妨げない工夫も凝らされている。


「見て見て! こっちはシャルドネの衣装。ロジャー王とジュリー女王のといっしょに考えたんだ」


 クリスは倉庫の奥へ駆けていって、布がかけられたマネキンを三体運んできた。シャルドネの衣装だと言うそれから、ジェーンはそっと布を取る。

 大胆と奇抜、そしてダンサーとは対照的に辛いデザインの衣装だった。

 胸元は胸が見えそうなほど開き、黒いひもで留めている。襟は外に大きく反り返り、縁はまるでシャルドネの水晶魔法のように尖っていた。その後ろからドラゴンの翼に見立てたマントが広がり、刃物のように鋭くギザギザとしていた。

 首と腰は黒のベルトで強調され、赤いホットパンツはウロコを何枚も重ねたような造りになっている。スリットスカートから見える太ももにもベルトが巻きつき、片足はロングブーツだった。


「なんというか、いろんな意味でハラハラする衣装ですね」


 今さらながらジェーンは、カレンにオーディションを勧めてよかったのかと頭を悩ませた。まじめで大人しく、シェアハウスではみんなのお姉さん的存在のカレンだ。この衣装には強い抵抗感を抱くかもしれない。


「ジャスパー部長からシャルドネは、美に貪欲で派手好きだって聞いたんだ。それは抑圧された子ども時代の反動なんだって」

「抑圧ですか……」


 クリスの言葉を聞いて考えがひるがえる。

 カレンは役者として正しい道を歩むために、自分を押さえ込もうとしていた。それを乗り越えたシャルドネという役は、カレンに新しい正解の道を見せてくれるかもしれない。


「それでこっちがロジャー王とジュリー女王の衣装だよ」


 クリスは二体のマネキンから布を外す。ジェーンは目をぱちくりとさせた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る