249 ウソつき③

「でもね、時にはゆずり合えないこともある。法律で重婚は禁じられているんだ。きみがジェーンくんと幸せになるためには、ダグラスくんと争わなければならない」

「……いい加減やめろよ。俺の幸せのためだって言い訳するのは」

「なにを言ってるんだい」


 ロンは前の路面電車を抜かすため、なめらかに車線変更した。まったく動揺を見せない横顔を、ディノはギロリとにらむ。


「あんたは俺にウソをついた。ジェーンは俺の許嫁でもなんでもない」

「……なるほど。きみは知っていたんだね。それはずいぶん前のことかな。そうだ、中学二年生の夏。あの頃からきみは無口になった。それが原因か」


 幼く、やわらかかった心に刻まれた傷に触れられ、ディノはダッシュボードを叩いた。


「なんでウソをついた! なんで俺とジェーンをそうまでしてくっつけたがる!」

「違うよ、ディノくん。ジェーンくんがきみの許嫁だっていうのはあながちウソじゃないんだ。だってきみたちは運命で結ばれているからね。考えてごらんよ。同じ時代に、ともに生きている意味を」

「……ジェーンの運命の相手は俺じゃない、ダグラスだ。ジェーンはすべての記憶を失ってもあいつを忘れなかった。あいつをずっと待ってたんだ」

「それこそ、彼女がかわいそうだと思わないかい?」

「どういう意味だ」


 訝しがるディノにロンはちらりと視線を寄越した。対向車線を走る車のヘッドライトが、不敵な笑みを照らし出す。


「ウソつきは僕だけじゃない。きみだって彼女に真実を話していないということだよ」

「……言ったところで信じてくれない。ジェーンは覚えてないんだ」

「だったらせめて本物の愛で彼女を守ってあげたらどうかな。もし、すべてを知る日が来ても、きみの愛があれば彼女は立ち直れるよ。ねえ、ディノくん。きみにとっても悪い話じゃないはずだ。そうでなければ、僕のウソに気づいた時点でこの話から下りてる」


 ディノは車窓から遠くの夜景を見つめた。

 ジェーンが許嫁だと信じて疑わなかった幼少期。毎日彼女に会いに行って募らせた憧れの気持ちは、父のウソに気づいても消えなかった。


「彼女を愛しているんだよね」

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