233 シェアハウス男3人組③

 ディノはじっとダグラスを見つめた。

 最初はこの男が目障りで仕方なかったなと思う。少しの羨望と大きな嫉妬を抱えていた。それが時々ジェーンにまで向かって、乱暴な気持ちにも駆り立てられた。

 そんな自分をふと嘲笑う。わかっていたことだ。彼女への想いは独り善がりでしかないことを。それでも長い時間募らせてきた想いを、簡単に捨てることができなかった。ダグラスへの想いを、自分に塗り替えさせてやりたかった。

 けれど彼女の涙に、この浅ましい感情は焼き落とされた。


「いいんだ、もう。俺はただのルームメイトでいい」

「ディノ? なにかあったのか……?」


 まるで自分が痛みを負ったかのように、沈んだ顔をするダグラスがちょっとだけおかしい。

 友人と思えば本当にいいやつだ。そんな彼だからジェーンを任せてもいいと思えたのかもしれない。

 ディノは勝手ながら自分の想いもダグラスに託して、できる限りそっけなく振る舞った。


「別に。からかうのに飽きただけだ。俺は最初からそこまでジェーンに気があったわけじゃない」

「……それが本音なら、かなりのクズ男っスけど」


 怪訝な目つきで送られたルークの非難を、ディノは悪くないと思った。


「そう思ってくれても構わない」


 手に入らないのなら、いっそ嫌われたほうが諦めもつく。ズキズキと痛む心には目を伏せて、ディノはこれ以上の追及から逃れるために立ち上がった。


「段取りは俺がつけてやるよ。ロンにうまいこと言って、ジェーンと休日が重なるようにしてやる」

「ディノ、なんでそこまでしてくれるんだ?」


 投げかけられたダグラスの言葉には答えず、ディノはリビングを出た。

 ジェーンを応援するため。自分の想いを断ち切るため。ぽつぽつと浮かび上がる理由とは違い、奥底に沈む不安がある。


「ロンがわからなくなった、から……。ジェーンの気持ちを無視してまでなんて、俺にはできない……」


 父への戸惑いとジェーンを想う苦しみからこぼれた吐息は、しんと静まり返った廊下に溶けて消えていった。

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