190 解雇通達②

「そうだ! 経費の不正請求だってジェーンがやった証拠はあんのかよ!? どうせでっち上げだろ!」


 レイジが言い放ったとたん、アナベラの口角が凶悪につり上がった。その言葉を待っていたと言わんばかりの笑みに、ジェーンの背筋が震える。

 アナベラは引き出しからふたつの紙束を机に叩きつける。それは領収書と経費請求書だった。


「証拠ならこれだよ。この請求書にはありもしない交通費や研修費が記入されている。そしてこっちは偽造された領収書だ。どっちもジェエエエン、お前の字で書かれているね」


 ねっとりとにらみつけられ、ジェーンは肩が跳ねた。レイジとクリス、静観するノーマンの視線が集まる。唇が戦慄わなないた。いつの間にか全身から体温が逃げ出している。

 それはアナベラの言うことが事実だとわかっているからだ。


「た、確かに私が書きました。でもそれはアナベラ部長に言われたからです……! 私は指示通りにやっただけでっ」

「そうだね。いくつか頼んだと思うけど、こんな領収書は知らないよ。大方、気に食わない私をおとしめようとしたんだろ!」

「違います! その領収書もアナベラ部長が書けと仰ったんじゃないですか!」

「あくまでしらばっくれる気かい。だったら、私が指示したって立証ができるんだろうね。目撃者は? ポケットにテープレコーダーでも忍ばせていたか?」


 せせら笑うアナベラの問いに、ジェーンは自分の立場を知り愕然とした。

 言った、言わないの論争は平行線を辿るだけだ。主張を誰が見ても明確なもので証明しなければ、この論争に勝つことはできない。

 アナベラは持っている。ジェーンが書いた偽造領収書を。しかしジェーンにはなにもない。目撃者だって誰もそれが不正かどうかまでは、見ていないだろう。

 仕組まれていたんだ、すべて、最初から。


「経費の架空請求は詐欺。立派な犯罪だよ」

「犯、罪……? そんな……」


 ジェーンの脳裏にロンの顔が浮かぶ。その目は失望に染まり、冷たくジェーンを見下ろしている。ルームメイトたちは一体どんな反応をするだろう。カレン、プルメリア、ルーク、ディノ――ダグラス。

 犯罪者なんかとはいっしょに暮らせない。出ていってくれ。

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