188 雨のカーテンに包まれて⑤

 声色や突き出す拳に本気は感じられなかったが、後方の騒ぎを聞きつけてカレンとプルメリアも足を止める。やれやれ、と肩をすくめてみせたルークが女性陣をうながした。


「おバカなふたりは置いといて、先行くっスよ」

「そうね。つき合うだけ疲れるわ」

「ダグもディノくんも元気だねえ」


 犬のじゃれ合いでも見るような目を向けて、カレンとプルメリアは再び歩き出す。

 ディノに雨の中に放り出される形となったルークに、ジェーンはダグラスが置いていった傘を差し出した。


「ルーク、よかったら入ってください」

「マジっスか! ジェーンちゃんやさしい!」

「はあ? なんであんたがジェーンと傘入るんだ。そこ代われルーク!」

「お前だけいい顔して終われると思うなよ!」


 ところが突然、ディノとダグラスの標的がルークに切り替わった。ルークは「ひゃあ」と妙に色っぽい悲鳴を上げ、ジェーンの手を掴む。


「ジェーンちゃん逃げるっスよお!」

「へ? わわっ、ルーク!?」

「カレン先輩もプルメリアも逃げろお!」


 ルークは先頭のカレンとプルメリアの背中を押して、走るようにうながす。事態が飲み込めないふたりだったが、猛然と迫るダグラスとディノを見て駆け出した。

 追いかけられれば逃げたくなる。本能に急かされてジェーンも懸命についていく。

 文句や悲鳴、ドラマの刑事さながら「待て!」と叫び声が飛び交っていたルームメイトたちの口からは、いつしか笑い声がこぼれる。結局、駅まで走るはめになった友の顔には、汗と笑みが輝いていた。

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