182 湖上の告白②

 思わず身を乗り出して言うと、ボートが揺れた。カレンはオールをこぐ手を止めて、小さくため息をつく。


「ジェーンに助けてもらったのは、プルメリアというより私だったじゃない」


 遠くの水音にさえ掻き消されそうな声を、ジェーンは耳をそば立て聞き拾った。


「なのにあの子ったら、個別にプレゼントまで用意しちゃって」


 さっきもらったグミ入りポーチのことだ。カレンは、自分はなにも用意していないことを気にしているんだと知り、ジェーンは首を振る。


「そんなプレゼントなんて結構ですよ! バーベキューに連れてきてもらっただけで十分です!」

「私が気を使われてどうするのよ」

「あ。すみません……」


 謝ると鋭くにらまれる。ジェーンは口を押さえて、へらりと笑ってみた。それで少しでもカレンの顔から強張りがほどければいいと思ったが、彼女の表情にはますます影が差し、額を抱える。


「ごめんなさい。そうじゃなくて私……プルメリアが嫌いなのよ」

「え!」


 湖に響いた自分の声が思ったよりも大きくて、ジェーンはとっさに周囲を確認する。するとオールを持ったルークと目が合い、彼は手を振ってきた。その向かい側に座るディノは、頬づえをついてそっぽを向いている。

 ジェーンはから笑いを浮かべ手を振り返し、ボートを揺らさないよう慎重にカレンへ身を寄せた。


「ど、ど、どういうことですか。おふたりは仲いいようにしか見えませんけど!」

「認めてはいるわ。プルメリアの演技力とか表現力、ダンスや歌、そして愛嬌。彼女が高く評価されることには納得してる。それにかわいい後輩でもあるわ。いつでも子犬みたいに寄ってきてくれて……」

「だったらどうして」

「普段抜けてるでしょ、あの子。それで私のほうがしっかり者に見られるけど、本当は逆なのよ。いざという時私は頭がまっ白になっちゃう。でもプルメリアはすぐに動けるの」


 男の子とイヴ――カレンがぶつかってしまった時の光景がよみがえった。

 あの時、狼の着ぐるみはしばし呆然と立ち尽くしていた。そこへジュリー女王役のプルメリアがすばやく動き、男の子に謝っていた。

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