169 ロンの真心②

「セイリ、ですか?」


 とたん、ロンは困り顔になって後頭部を掻く。笑みには苦いものが混じっていた。なにかいけないことを聞いてしまったのか? 不安に揺れる胸をジェーンは服の上から握る。

 そこで気がついた。今着ているのは整備士の青い制服ではない。白地に“クリエイション・マジック・ガーデン”と印字された土産物の服だ。


「そうなんだね。ジェーンくんが生理を忘れている可能性を僕も考えておくべきだったね。ごめん。服は汚れてしまったから替えたんだよ。あ、もちろん救護室の女性看護師さんにやってもらったからね。心配しないで」

「よ、汚れる? セイリってどういう――」


 言いながらジェーンは体を起こそうとした。その瞬間、股をなにかが這い下りる感触に身をすくめる。下腹部がやけに重く、かすかに鈍痛を帯びている。

 ジェーンは声もなく混乱し、中途半端な姿勢のまま動けなくなった。少しでも動いたらまた、ドロリとしたものが流れる予感がする。

 そんなジェーンの状態を知ってか知らずか、ロンは少し言いづらそうに生理を説明した。


「えっとね、女性は約一ヶ月ごとに生理が来るんだ。生理っていうのはね、子宮が赤ちゃんを育てる準備をするんだけど、それがいらなかった場合に体外に排出される現象のことだよ。そういえば今まで生理は来てなかったのかい?」


 ジェーンは不安になりながらうなずく。ロンは微笑みで受けとめ、なだめるように肩をそっと叩いた。


「そういうこともあるね。特にきみは記憶を失うほどのなにかがあったんだ。無理もない。生理は血が出るけど、それは怪我でも病気でもないから安心して」

「わ、わかりました。でもその、血はどうすればいいですか……?」


 股を流れるものの正体がわかり、ジェーンはひとまず安堵する。しかし引き締めた足を少しもゆるめることができない。ベッドのシーツも汚してしまっているのでは、と考えるとそれこそ血の気の引く思いだ。

 ロンは持ってきた紙袋をガサゴソと漁り、なにやら四角いものを取り出した。


「これは生理用ナプキンだよ。つまり、赤ちゃんのおむつと言えばわかるかい? それと似たようなもので受けとめるんだ。看護師さんがつけてくれてるはずだからだいじょうぶ。使い方はパッケージに書いてあるよ」

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