95 お買い物にいこう!③
ディノはルークをひとにらみして、自分用の牛乳パックをあおる。しばらく考えてから「ああ、給料日か」とつぶやいた。
「もう早起きしなくて済むのはいいことだ」
再びパックに口をつけながら向けられた笑みは、またジェーンをからかうものだった。わかっていたが、他のことに気を取られていたジェーンは、反応するタイミングを逃した。
「ねえ、ディノも明日いっしょに出かけない? 私たち銀行や図書館に行くんだけど」
「ふうん。いいぞ。特に予定はないからな」
ちょうどいいとばかりにカレンが誘いかけ、ディノが返事している間も、ジェーンの意識は一点に囚われていた。
ディノの褐色の肌に刻まれた筋肉の陰影、そこに潜む形容しがたい美しさに引き込まれる。見てはいけないと自分を戒める分だけ、目はその魔力に抗えなくなった。
自分にはけしてない硬さ、強靭さ、そして黒々とした肌の艶めき。それがこんなにも美しいとは知らなかった。
「それじゃあ九時出発でいいかしら。ジェーン?」
「……あ、はい。九時ですね。よろしくお願いします」
カレンに話しかけられてはじめて、ジェーンはディノに見惚れていたことを自覚した。慌てて返事して、ぶ厚い本で壁を作る。そうでもしなければまたディノを見てしまいそうだった。
その壁の向こうでディノはひっそりと笑みを浮かべ、ジェーンを見つめていた。
翌日。路面電車に揺られて二十分。シェアハウスから一番近い大きな鉄道の駅〈東中央
車両から降りたジェーンは、建物の大きさにきょろきょろしてしまう。どれも十階以上はありそうだ。ビルの表面を電光掲示板のピカピカした文字が走り、居酒屋のメニューやおすすめ物件の案内が表示されている。
中には巨大モニターを掲げている建物もあった。湖のボートに乗ったり、バーベキューしたりして遊ぶ女性たちのはしゃいだ声が大音量で流れている。どうやら旅行会社の宣伝らしい。
「すごいです! 路面電車がこんなにたくさん集まって! え、上にも道ありますよね? あの道はどこに行けるんですか!?」
「はいはい。あとでその道行くから、ジェーンははぐれないように注意して」
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