90 彼が見つめるひと③

「でも、ふたりはつき合ってないっスよ」

「えっ」


 思わず弾かれるように顔を上げる。するとルークはにんまりと笑った。


「本当に聞きたかったのはそっちでしょ」


 ささやかれた耳に、熱が集まる。ジェーンは恥ずかしさで耳を隠しうつむいたが、喜びに震える心は否定できなかった。


「ありゃ、正解? ジェーンちゃんってわかりやすいっスね」

「え。え? もしかして引っかけたのですか!? ルークひどいです!」


 つい、肩をぽかりと叩いたがルークはへらへら笑っていた。お調子者の性格は神鳥アダムゆずりか、生来のものか。ジェーンは今さらながら、聞く相手を間違えたと唇を尖らせた。


「まあ、つき合ってないのは確かなんスけど……」


 ふと、ルークは笑みを引っ込めてあごに手をかける。なにかを追いかけるように目を横へと流した。


「さっきの事故とかの反応見てると、ダグ先輩意識してると思うんスよねえ」

「それは私も思いました」


 だよね、とルークは苦笑う。

 案外、ダグラスの片想いをすんなり認めた自分をジェーンは不思議に思った。さっきはあんなに居心地の悪さを感じて逃げ出したというのに、共感してくれる仲間の存在だけで少し余裕が生まれてくる。

 ダグラスとの絆は失われた記憶とともに、白紙に戻った。でもだからこそ、また一からやり直せる。


「プルメリアの気持ちは俺にはわからな、いんスけ、ど……?」


 不自然に言葉を途切れさせるルークを見ると、視線がジェーンを通り越していた。

 誰か来たのかと振り返るジェーンの脇を、人影が通り抜けていく。すぐに向き直った先には、マグカップを持ったディノがいた。

 ディノはルークとジェーンの間に立ったまま、テレビを見ながらカップをすすっている。


「どうしたんスか?」


 ルークの問いかけが合図だったかのように、ディノはすとんと腰を下ろした。視線はテレビに固定したまま、なんの前触れもなかった行動にジェーンとルークは目をまるくする。

 そしてディノは無言で尻をすり、ルークに向かって詰めはじめた。


「ちょ、え、なに! なに!?」

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