83 クリスの夢①

「クリストファーさん、疲れているんですか? 少し休憩したほうがいいのでは」

「別に疲れてないけど。なんで?」


 ひと通り見終わった衣装にクリスは手を置く。すると生地からみるみるくすみが取れて、本来の鮮やかな色を取り戻した。

 言葉通りクリスは疲れた様子を見せず、次を催促する。それでもジェーンはマネキンを渡すのを渋った。


「あの、さっきからため息をつかれているので」


 クリスはきょとんと目をまるめた。無意識だったらしい。前髪を掻き上げるように額に手をやり、うつむくクリスをジェーンは気遣う。

 しかし彼はゆるく首を横に振った。


「いや、そうじゃなくて。やっぱりいいなって思ったんだ。演劇部の歌とダンス。なんていうか、心が軽くなるんだ」

「私も感じました。みなさんの歌とダンスはまるで魔法みたいですね! 私自身が雲に創り変えられたように、ふわふわしてわくわくするんです!」


 クリスは口に手をあて小さく笑った。


「それ、言えてる」


 そう言って振り向いた笑顔は、彼がジェーンにはじめて見せたものだった。しかし、クリスの表情はすぐに陰り、目はどこか遠くを映す。


「僕さ、このガーデンに小さい頃から何度も通ってて、パレードとショーが大好きだったんだ。だから、自分に魔法の素質があるってわかった時、ここに就職するって決めた。ショーの、衣装を、創りたかったんだ……」


 ジェーンはハッと息を詰めた。今もバインダーといっしょに抱えられているスケッチブックに目を留める。


「もしかしてそのスケッチブックには」

「ああ、うん。まあね」


 肯定しつつも、クリスはまるで恥じ入るようにスケッチブックを体で隠した。ジェーンはダメ元で「見てもいいですか」と聞く。

 返事はなかったが、クリスは一ページだけ開いてそっと渡してくれた。

 そこには男女の衣装デザインが描かれていた。テーマは〈遊び〉と記されていて、男性はトランプのスーツを、女性は風船のスカートを身につけている。

 その一案だけでも、クリスの自由な発想が垣間見えた。


「これ、ジャスパー部長には見せたんですか」

「見せてないよ。どうせダメだって言われる」

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